x . x . x .


「ゲッ…」


人が少ない夜の公園。
そこにいた折原臨也は、身の危険を感じ、一歩一歩、目の前の人間から後ずさる。


平和島静雄。


その男を見つけた瞬間、体が危険信号を放つ。
同時に、ポケットの中から小さなナイフも取り出していた。



「い〜ざ〜や〜…」
「やー、俺、運悪くなっちゃった?こんなところでシズちゃんに会っちゃうなんてさ」
「うるせぇ!テメェは黙って……」



相変わらず、理不尽な暴力人形だなぁ。
臨也はそう思いながらもナイフを構え、さらに後ずさる。

しかし、静雄の様子がおかしいことに気がつき、足を止める。



「シズちゃん?」
「あぁ?〜っ……」



次の瞬間、
臨也に抱え込まれるような形で静雄は倒れた。
そして臨也も、静雄の体重を支えきれなくなり倒れる。



「ちょ、シズちゃん、酒くさ!」
「酒なんて飲んでねーよー」
「しかも酔ってるし!絶対なんか飲んだでしょ!」
「飲んでねぇって言ってんだろー。俺は今日、オレンジジュースだけしか飲んでねーんだよー」
「あぁ、なるほどね」



臨也は納得したように頷く。


―シズちゃん、気づかなかっただけでスクリュー・ドライバー飲んだんだな。


呆れた。
しかし酔っ払った静雄は自分に殺気がないことに気づき、臨也は安心したようにため息をつく。
しかしこの喧嘩人形、どうしたものか。


自分に覆いかぶさるように寝る静雄をどかそうと、臨也は静雄の胸のあたりを強く押す。
……が、無駄だった。
静雄はぴくりとも動かない。



「ねぇ、シズちゃん、どいてよ」
「やーだ」


―殺すぞ酔っ払い。



ナイフで一思いに刺してしまえば……
そう思ったが、酔っ払い相手にそれは酷いと思い、臨也はナイフをしまう。
自分も静雄相手に情をきかせることができるのか、と思いながら。



「ねぇ?シズちゃん……」
「ん〜?」
「あのさ―――」



そう言いかけたところで、臨也は言葉を発せなくなる。
自分の唇と、静雄の唇が重なり合ったことによって。



「……は?」



満足そうに笑う静雄を見て、臨也は再びナイフを取り出す。



「どーゆーつもり?」
「えへへー」
「答えになってないんだけど」
「じゃーなー」
「は!?ちょ、待てよシズちゃん!」


キスだけすれば満足なのか、静雄は立ち上がり、ふらふらと臨也のもとから去っていってしまう。
酔っ払い恐るべし。

臨也は自分の口元を袖で抑えながら、頬が赤く染まっていることに気がついた。



「まさか……ね」



そう呟いて、自分も公園を後にした。



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