これ以上、暴かないでください。
前か、後か。
右か、左か。
上か、下か。
一体どこを見れば、過去とケリがついて、
一体どこを見れば、現在…未来へと進めるのか。
少年は今日も、心のどこかでそんなことを考えていた。
*
私立来良学園からの帰り道。
友人である、帝人と杏里と別れた正臣は、一人池袋の街を歩いていた。
今日は特に寄る場所もなく、まっすぐ家に帰ってのんびりしようと思っていたとき、後から声をかけられ、正臣はそっと振り返る。
「やぁ、正臣君、久しぶりだね」
「久しぶりもなにも、俺、あんたのこと避けてますもん」
「いきなり酷いなー、正臣君は。何か怒ってる?」
「もちろん、会いたくない人物に会ってしまいましたからね」
今、出来ればもっとも会いたくない人物――折原臨也に会ってしまった。
正臣は、肩に乗った臨也の手を振り払う。
「ここで会ったのも何かの縁だしさ、2人でお茶でもしない?」
「はは、臨也さんはおもしろい冗談を言うなー。…誰が行くかよ。それに今日忙しいですし」
嘘をついた。
何の予定もないのに、臨也と関わりたくない一心に。
正臣のツンケンした態度に、臨也は少し困ったように笑いながら、尚も話続ける。
「あれ?今日、いつもの2人は?」
「帝人と杏里ならさっき別れました。だから今日は家に帰ってのんびり――」
そこまで言いかけて、正臣は慌てて両手で口をふさぐ。
そんな正臣を見て、臨也は楽しそうに腹部を抱えて笑った。
「正臣君さー、君、バカなの?」
「なっ!」
「ま、用がないんなら決定だね。一緒に行こうか」
――あぁ、最悪だ。
正臣は半ば無理やり引っ張る臨也の手を振りほどけずに、空を見上げた。
綺麗なハチミツをたらしたようなオレンジ色の空に何だか腹が立って、すぐに下を向いたけれど。
*
「……あの、臨也さん」
「何?」
「お茶、じゃなかったですっけ?」
「そうだよ?」
臨也は「何か変?」と言うように正臣を見つめる。
正臣は手に持ったティーカップをテーブルに置いて、立ち上がった。
「ここ!臨也さん家じゃないっすか!」
「それがどうしたの?誰が“喫茶店で”なんて言った?」
「っ……」
これだから、この情報屋は嫌いだ。
正臣は小さなため息をつきながら座ると、ティーカップに口をつけた。
「それに、人前じゃ出来ないこともあるじゃん?」
「ぶッ!」
「正臣君汚ーい。それに冗談だよ、何本気にしてんの?」
本気で臨也に殺意が芽生えた。
正臣は急いで噴いてしまった紅茶を拭くと、臨也を軽く睨んだ。
が、本人は正臣の方など見もせず、正臣の鞄をあさりだした。
「ちょ、何してるんですか!?」
「手荷物点検……と。あったあった」
そう言いながら臨也は目当ての物を発見したらしく、嬉しそうにニンマリと笑う。
臨也の手に握られたもの――それは黄色いバンダナだった。
正臣は臨也から視線を逸らす。
「それが……どうしたんスか」
「何でこれ、持ってんの?」
「……、そんなこと、どーでもいいじゃないですか」
「当ててあげようか?」
正臣は視線を逸らしたまま、臨也の話に耳を傾ける。
「まだ、忘れられてないんでしょ、彼女のこと」
その言葉に、正臣は臨也のほうを睨むように見た。
「おー怖い怖い。杏里ちゃんだっけー?あの子のことが好きなのか、正直自分でもよくわかってないんでしょ」
「……アンタは、黙っててください……!」
「けれど帝人君も彼女が好きで……。結局自分の居場所なんて無いのではないかなんて思ってきちゃったりして」
「……黙れ!」
「だからこんなもん持ち歩いちゃって。結局過去から逃げられない」
正臣の瞳には、ほんの少しだけ涙が溜まっていた。
「それで正臣君は……」
「…………でください」
「え?」
「これ以上、暴かないでください」
正臣の眼は真剣だった。
けれど悲しそうで、どこか悔しそうで、
耳まで赤く染めて、臨也を強く睨んだ。
そんな正臣に、臨也は弱く微笑むと、両手を広げた。
「おいでよ」
「……?」
「これ以上暴かれたくないなら、全部教えちゃえばいいじゃん」
「何言って……」
「寂しいんでしょ?居場所が欲しいんでしょ?ならおいで」
唐突に、選択を迫られ、正臣は少し下唇を噛んで黙り込む。
そして、答えが決まったらしく顔を上げると、一歩、また一歩臨也に近づいて……
そのまま臨也に飛びついた。
臨也は正臣の耳元で、呟く。
「初めっから、俺のところにいればいいのに」
「そんなの……嫌です」
「じゃあ今はなんで?」
「……わかりません、わかりたくないです」
今、こんなにも落ち着いているという事実を。
1313ラヴ!提出作品。
臨也×正臣:これ以上、暴かないでください。
話的に、2巻の最初らへんだと思います……。
ぐたぐたですみません。
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