キスの距離
「正臣?」
少年の異変に気づいたときには、もう時既に遅し。
竜ヶ峰帝人は、生まれてはじめての唇と唇を合わせる行為――ファーストキスを、親友の紀田正臣に奪われることになった。
「え!?」
帝人は慌てて正臣から一歩さがると、机の角に足をぶつけ、バランスを崩し倒れてしまう。
正臣は、小さく笑いながら帝人の手を引っ張って起こす。
「どうしたよ、帝人」
「ちょ、待と、正臣!だって僕――」
「知ってる。っていうか反応見ればわかる。初めてだったって言いたいんでしょ?」
言いたいことを正臣に言われてしまった帝人は、悔しそうに正臣を睨むと、そのまま座り込んでしまった。
「おいおい、力ぬけっちゃったかー?」
「ありえないよ!だだだって、ここ教室だし!」
「だって誰もいないし」
「っていうか僕と正臣は男同士なわけだし!」
「いーじゃん、別に。お互い好きなんだから」
「それから、それから……〜」
何もいえなくなった帝人は、口を閉じると、そのまま俯いた。
それを見た正臣は、心配そうにかがむと、帝人と同じ目線になるようにした。
まぁしかし、帝人が顔を上げればの話だが。
「正臣はズルいよ」
「何で?」
「僕、初めてだったし、こーゆーことは、ちゃんと宣言してからやってほしかった」
「宣言て……」
正臣は呆れたように笑いながら、帝人にあやまる。
「ごめんな」
その言葉に、帝人はゆっくりと顔をあげる。
が、目の前に正臣の顔があって、顔を赤くすると、正臣から目をそらす。
そんな帝人の動きを見て、正臣は幸せそうに微笑む。
「……で、シャイボーイな帝人くん、初めてのキスの感想は?」
「いきなりすぎてよくわかんなかったよ……。なんか、正臣が近すぎていろいろ暗かった」
「は。マジか。もうちょっとかわいらしく、レモンの味がした〜っ!とか言えよ」
「√3点」
「おま…ボキャブラリー少ないなぁ……」
そう言いながら、正臣はもう一度帝人を立ち上がらせる。
「さ、もういっちょいきますか!」
「へ!?」
「近すぎてわからなかった、暗かったなんて感想言われて、この正臣様が黙っていられるか!」
「頼むから黙っててよ〜……」
帝人が泣き言を言うと、正臣は帝人の頬を軽く2度、パンパンと叩くと言った。
「いくぞ!」
「えっ、ちょ、待っ……」
言葉を言い終える前に正臣の顔が急接近して、自分の唇に触れる。
―やっぱりよく……わかんないよ。
帝人はそう思いながら、さっきとは違うことに気がつく。
長い、そして、深く甘い。
帝人はゆっくりと目を閉じると、正臣にされるがままにキスをした。
じんわりと、正臣の愛を感じながら帝人は、さきほどよりもマシな感想を言える気がしてきていた。
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