なんだか物足りない日。
何かが自分に不足していた。
そう感じた臨也は、とりあえず外に出てみることにした。
その足は駅へと向かい、池袋へと近づいていった。
池袋の街は彼の好きな『人間』がたくさん集まり、休むことを知らない。
臨也はひとまず、あたりをぐるりと見回した。
―よかった、シズちゃんはいないみたいだ。
バーテン服の存在を確認していたら、代わりに見慣れたワゴン車が目にとまった。
「あれー?ドタチンじゃーん」
「…………。」
「今日、他の3人は?」
「渡草は車の中にいるし、遊馬崎と狩沢はどっか行った」
「ふーん。めずらし、一緒じゃないんだ」
「別にいつも一緒ってわけでもねぇしな」
軽く世間話をした後、臨也は自分の求めていた答えを門田に聞いてみた。
「ねぇ、俺今日、なんか不足してるように見える?」
「あぁ?別にいつもと同じ格好して、何も変に見えねーけどよ」
「そうじゃなくてさ、内面的に」
「そんなの俺に聞くなよ。自分で考えな」
門田はそう言うと、ワゴン車の中へ入って行ってしまった。
困った臨也は(別にたいして困ってもないんだけどねぇ)
とりあえず、池袋の街をふらついてみることにした。
―最近おもしろいことが、ないからなのかなぁ?
そう思いながらふと、歩道橋を目にすると、
歩道橋の上に、見慣れた小さな影が3つ。
その真ん中にいる少年を見て、臨也はすべてを納得したかのように頷く。
「なるほど、そーゆーことね。……悔しいけど」
そう呟いて、再度目を歩道橋に向ける。
3人の中で、元気にはしゃぐ明るい色の髪の少年――紀田正臣。
思えば最近、臨也は正臣に会っていない。
不足していた『何か』というのは、『紀田正臣』という少年の存在だということに気づかされた臨也は、
悔しそうに笑うと、池袋を後にした。
*
「まっ、俺も3人で仲良くしてるところを邪魔してやろうなんて酷いヤツじゃないけどさ」
マンションに帰り、自分の座っているイスをくるくると回しながら、臨也は楽しそうに喋った。
「ヤツじゃないけど――その分、俺とも楽しもうよ」
ポケットから取り出した携帯の画面には、アドレス帳の中の1人の名前が載っていた。
臨也は何の迷いもなく、その番号に電話をかける。
―俺、なんだか今日物足りなくてさ。足りない分を君に補ってもらおうと思うんだ。
相手に電話をかけ始め数秒後、聞きなれた声が返ってきた。
臨也はにんまりと怪しげな笑みをうかべると、声を発した。
「あ?もしもし正臣くん?」
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