池袋、少年のうしろに黒い影。


「やぁ、正臣くん」


その声を聞いたとき、正臣のは気だるそうに肩を落とし、
世界で一番キライなものを見るような目で、声をかけてきた青年を見た。



「なんスか、臨也さん」
「久しぶりだね。しばらく見ないうちにまた大きくなったんじゃない?」


――お前は俺の親戚か。


正臣はそう思いながら、適当に相槌を打ちながら、臨也を睨んだ。
睨まれた臨也は、正臣の様子を気にせず話を続ける。


「ここで会ったのも何かの縁だと思わない?」
「そッスね」
「そうだ!正臣くん俺の家においでよ」
「あー、いいですね」
「じゃあ、決まりだ」


「……え!?」


事の重大さに気がついたときは、もう時既に遅し。
臨也はニヤニヤしながら正臣の顔を見る。
正臣は、ちゃんと臨也の言葉に耳を傾けず返事をしたことを後悔しながら、
慌てて自分の言葉を訂正した。



「臨也さん、誤解です!」
「なにが?」
「俺、行きませんからね!」
「え、でも今いいって言ったじゃん」
「ッだから〜!」
「男に二言は無しだよ正臣くん」



――いつか殺してやろう、この情報屋。

正臣は仕方なく臨也の後について、彼の巣――新宿へと向かった。







久しぶりに見る臨也の家は、相変わらずとても綺麗で片付いていた。


「ゆっくりしてってね」
「嫌ですよ」


正臣はそう言いながら、ソファに行儀よく座る。


それを見た臨也は嬉しそうに微笑むと、ソファ越しに正臣の後ろへと向かった。
その綺麗な髪と、整った横顔を眺めながら、臨也は一つの異変に気づく。


「あれ?正臣くん、ピアス変えた?」
「は?そりゃ、変えますよ」
「ふぅん」


臨也は興味深そうに正臣の耳と、ピアスを見つめる。



「俺がプレゼントしたら、つけてくれたりするわけ?」
「するわけないでしょ。まぁ、気に入ったら話は別ですけど」
「そっか」



臨也は腰をかがめ、正臣の髪の毛を耳にかけながら、耳元でそっと呟く。


「似合ってるよ」
「へっ!?」


突然の耳元への生暖かい吐息に、正臣はビクリと一瞬震える。


「正臣くん、可愛い」
「はっ!?ちょ、耳元で喋らないでッ……くださッ…ぁい!!」
「やだなー。吐息で感じてるの?何かしたくなっちゃうなぁ」
「ちょ、臨也さ…ふざけないでくださいよ!」


臨也は笑いながら立ち上がると、正臣の頭をポンポンと軽く叩く。


「冗談だよ。さすがに俺も高校生に手は出さない。つもりだけど」
「出したら殺しますよ」
「あーはいはい」


正臣が頬から耳を赤く染め、臨也を睨みつける。
臨也はふざけたようにヒラヒラと手を振ると、部屋の奥に進んで行った。


「何か飲むー?」
「話そらさないでください!」
「正臣くーん。コーヒーでいいかなー?」
「……はい」


人の話をまったく聞かない情報屋相手にこれ以上なにを言っても無駄だと思った正臣は、仕方なく頷いた。


――俺、やっぱりあの人嫌いだ。

正臣はそう思った。
……はずなのに。

臨也が、
触れたところの熱が冷めない。
吐息がかかった場所が熱い。



キライ。
嫌い。
きらい。


呪文のように何度唱えても、体は正直だ。
だってこんなにも心臓が煩い。

『嫌い』の気持ちが鼓動にかき消される。


「臨也……さん」


正臣は自分の胸を押さえながら、ソファの上でうずくまった。



未だに心臓の音は鳴り止まない。



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