憂鬱な誘い

自転車の車輪の音が聞こえる。
今日も彼等は、汗だくになりながらペダルを回していく。

憂鬱な誘い

好きでマネージャーになった覚えはない。
紫外線の多い中で洗濯をして、ドリンクを作って、ボトルを渡して…楽しい日々ではないが、でもそれは日を増すごとに苦ではなくなっていった。
気づけば3年も経って、私達は3年生になった。

「なあ、大木さん、部活入ってないならマネージャーやらないか?」
『え?マネージャー?』
「そう、自転車部の。」
『私、自転車わからないし…。』
「構わないさ!」
『…でも…。』
「大木さんが、マネージャーなら俺、頑張れるかも?」
『新開くん冗談キツイなー!』
「はは!」
『まあ、暇だし考えておくよ。』
「ヒュウ!今度の水曜日見学に来いよ!」


そんな新開の唐突な一言のせいで、決まってしまったマネージャー。
思い返せば、懐かしくて懐かしくて。
仕事に馴れるまでは新開を何度も恨んだけど、今では感謝している。

「冥子ー!」
愛車のサーヴェロを引いて来る新開がこっちにきた。
『お疲れー!ドリンク?』
私は、ドリンクボトルを出して新開に向けた。
「悪いな。ありがとう。」
新開はドリンクボトルを受け取り、口に運んでいく。
『あれ?荒北くんは?』
「靖友は、もう一周行ったよ。」
『倒れなきゃいいけど。』
「はは!そうだな!」
新開は、新しいボトルをボトルホルダーにセットして「俺も、もう一本行ってくる!」と言いまた走り出した。

最後のインターハイに向けて、駆け抜けるみんなを精一杯見守っていきたい。
今ではそう思っている。
新開には感謝しているけど、いまだにあの一言は冗談だったのか、本気だったかなんて私にはわからない。


2015/05/17

[ 1/5 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -