それぞれの事情:後(9/22)

「ほんと、大した話じゃないですよー?
 一緒に戦っていた仲間の一人が大怪我をしたって聞いて…。
 その間、私が皆さんの代わりに敵と戦おうと思って。
 大見得切って敵の大将の下に飛び込んだら、自滅しちゃって!」

全然大したことあるんだけど、殺されようとする瞬間までは無傷だったから良しとしてほしい。でも、きっとあの時私が異世界へ渡らなかったら、本当に私はあの場で死んでいたという確信があった。
皆さん、傷ついた仲間の看病で憔悴していたから。せめて、意識が戻るまで待てばよかったなあ。私、あれっきり会えてないや。

「そっかー、やっぱり立花ちゃんも、戦っていた子なんだねえ」
「はい、やられちゃいましたけどね!それで、気がついたら、羽根が空から落ちてきて、羽根を手にしたせいなのか、地面に穴が空いて。気がついたらあのミセにいました!」

ある意味、私は私の世界にあった羽根をサクラ姫の下へ運ぶ大役を務めたことになるのだろうか。そう思うと、出会いは必然という言葉にも愛着がわくものだ。私がどれだけ呑気に笑っていても、小狼さんの顔は少し濁ったまま。何が心配なんだろう。尋ねてみると、彼は短く私へ質問を返した。

「その、仲間の方は…」
「ああ、それなら無事ですよ!思えばあんな怪我で、彼が死ぬわけないんですから」
「立花さんは、その人を信じているんですね」
「ええ、勿論!あの人は強いですから」
「それならよかったよー。立花ちゃんの仲間が無事で。聞かせてくれてどうもありがとー。それにしても、立花ちゃんの異世界移動の話、不思議だよねー」

ファイさんに言われてみて、やっと私は自身の謎に満ちた異世界移動について考えてみる気になる。しかし、異世界を渡る術について明るくない私には、考えを巡らせるだけの知識という土台がないのだから始末に負えない。

「羽根にはまだまだ謎が多いですし。手に入れてみたら、何か分かったりするんでしょうか!」
「それいいねー、羽根を調べるっていう旅の目的が増えるしー」
「それならおれも…、さくらの安全が第一ですが、少し興味があります。羽根はおれが調べていた遺跡がきっかけでできたものですから」

生真面目な小狼さんも乗り気でいてくれるから、話が弾んでしまっていた。小狼さんは考古学的観点から、ファイさんは魔術師としての視点から、私は霊能者としての視点を、それぞれが持ち寄ってお遊びめいた議論を続ける。
すっかり蚊帳の外になってしまった黒鋼さんとモコナさんは、お互いじゃれることにも飽きてしまったのか苦言を呈する段階まで来てしまっていた。

「おい、話そらしてんじゃねえよ、てめぇこそどうなんだ」
「そっか、オレの話がまだだったっけー?オレは自分であそこへ行ったんだよー」
「ああ!?だったら、あの魔女に頼るこたぁねぇじゃねぇか。自分でなんとか出来るだろ」
「無理だよー。オレの魔法総動員しても一回他の世界に渡るだけで精一杯だもん」

だから、彼らにとっては魔女さんを頼るしかなかったのだ。
小狼さんとファイさんにはこの"旅"自体に明確な目的がある。色んな世界を渡って羽根を見つけることと、元の世界に戻らないために移動し続けること。それを叶えられるのは、魔女さんだけ。

「小狼君を送った人も、黒ちんを送った人も、もの凄い魔力の持ち主だよ。でも、持てるすべての力を使っても、おそらく異世界へ誰かを渡せるのは一度きり。だから、神官さんは小狼君を魔女さんのところに送ったんだよ」

きっと、彼らは旅を続けるのだろう。小狼さんは全ての羽根が見つかるまで。ファイさんは元の世界に戻れない事情が終わるまで、ずーっと。

だったら、黒鋼さんと私は?もし、旅の途中に私達の二人の元の世界があったとしたら、私達は旅を抜けることになるんだろうか。
もっと言えば、このまま旅を続けていって羽根が全部集まったら、小狼さんも旅を止めてしまうんだろうか。ファイさんの事情が片付いたらファイさんの旅は終わってしまう?
それぞれの終着点はバラバラで、いつ旅が終わってしまうかも分からない。考えだしたらキリがなくなってしまう。

始まったばかりの旅なのに、終わりのことを考えてしまう自分がおかしくて。元の世界へ帰りたいはずなのに。出会ったばかりの人達との別れをこんなにも悲しく感じる自分に呆れて、笑ってしまいそうだ。


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