未知の世界(7/9)

黒い人と、白い人と、私。
既に対価を払い終えた三人の前で、最後に男の子の対価が支払われる。物々しい雰囲気で魔女さんは何度となく、彼へ問いかけた。

「自分の一番大切なものを差し出して、異世界に行く方法を手に入れる?」
「あなたの対価が何か、まだ言っていないのに?」
「あたしができるのは、異世界へ行く手助けだけ。この子の記憶のカケラを探すのは、あなたが自分の力でやらなきゃならないのよ」

その問いに男の子は全て、はい、とこたえるだけ。全て同じ言葉だったけれど、強い意志が込められている。魔女さんは彼の様子が気に入ったのか、とても優しげな顔で微笑んでいた。

「…いい覚悟だわ」

そうしているうちに眼鏡の男の子が、白と黒のウサギのような未知の生き物を連れて現れる。式神とも、犬神とも違う、私の見たことがない、実態を持つ存在。
モコナ=モドキ、と魔女さんは呼んだ。その色合いが隣に立つ二人の男の人を思わせて、場違いだけど楽しい気持ちになってしまう。
黒い方は眼鏡の男の子の腕の中で、そして白い方は魔女さんが抱いて私達の前へ。

「モコナがあなた達を異世界へ連れて行くわ」
「なるほど、モコナさん、お世話になります!」
「おい、もう一匹いるじゃねぇか。そっち寄こせよ、俺ぁそっちで行く」

などと黒い人は言っているが、そう上手くいくだろうか。黒いもの同士、一緒にいると保護色で分からなくなりそうだ、と下らないことを思う。案の定、通信用であるらしい黒い方の受け取りは拒否されてしまった。あ、舌打ちは良くないですよ!

「モコナはあなた達を異世界に連れて行くけれど、そこがどんな世界なのかまではコントロールできないわ。だから"いつ"あなた達の願いが叶うのかは、運次第」

質の悪いギャンブルだ。払ったものはただの日記帳だけど、それにしたって不安しかない想定だった。つまり、私がおばあちゃんになる頃、元の世界に戻ることになる場合だってありえるのだということ。
他にも元の世界に戻るタイミングは、私達の東京が更地になってしまった後だってありえるし、やはり私が殺される直前だってあり得る。もしかしたら、過去に戻ってしまうこともあるのだろうか。
不安になって魔女さんを見つめるけれど、彼女の表情からは何も読み取れない。嘘を言っているかどうかさえ、分からない。

「けれど世の中に偶然はない。あるのは必然だけ。あなた達が出逢ったのも、また必然」

私がこの人達に出会ったことが、必然?
出会うべくして、出会ったということなのだろうか。
だったら、私達の願いの成就も必然であってほしい。魔女さんの言う必然が本当にあるのなら、どうか、私の願いを果たさせてください。
柄にもなく、手のひらを組んで、誰にでもなく祈る。誰に祈るのが一番いいだろう。神様は色んな人に頼られて忙しいから後回しにされたら困るし、手っ取り早く目の前にいるモコナさんに対し祈ることにした。
頼みます、モコナ大明神。


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