二人の対価(5/9)

それにしても、対価とは一体何を払えばいいのだろう。
最も価値のあるもの、といっても私には何も思いつかない。
いの一番に訪ねた黒い人の様子を見ながら、じっと考えていた。

「俺の対価ってなんなんだよ」
「その刀」
「…!」
「なっ!銀竜はぜってー渡さねぇぞ!!」

黒い人と魔女さんは、じりじりと言い合いをしながら、交渉を進めていく。警察とかテレビとか、私にとっては馴染みのある言葉だけど、彼にとってはそうではないのだろう。
分からない言葉や常識に困惑しつつ、刀を絶対に手渡そうとしない。
竜の飾りのある刀なんて見たことがないから、あれは特別なものなのかもしれない。それ以前に私があの黒い人でも、戦う手段をそう簡単に人に委ねたくなかった。

「あなた達がいるこの世界には、あたし以外に異世界へ人を渡せるものはいないから」
「んな、デタラメっ!!」
「本当だぞー」
「マジかよ!?」
「本当ですか!?」

しかし、追い打ちをかけるように魔女さんは事実だけを積み重ねていく。白い人は優秀な魔術師なのだろうか。何かを察しているのか、事実を裏付けるような発言に嘘はなさそうだった。そう、二人が言う通り、どのみち私達は彼女を頼るしか手はないのだから。

「くっそー!絶対"呪"を解かせたら、また戻って来てとりかえすからな!」

黒い人は覚悟を決めたようで、刀を手放していく。
豪快に刀を突き出すのだから、いっそ潔く見えて拍手をしてしまった。それにしても、"呪"という言葉が気にかかる。何やら禍々しいものに彼も巻き込まれているのだろうか。改めて彼をじっと見ても禍々しいものは、一見して"視る"ことはできない。珍しいくらい澄んだ気を持った人だというくらいしか分からなかった。

「茶化してんじゃねぇぞ!小娘!」
「わっ、ごめんなさい!」

黒い人に怒られてしまったけれど、笑っていないと落ち着かなかった。
刀、と黒い人の対価が示された時、感じた怖気のようなものを誤魔化したかったから。
その刀にどんな逸話があるのか、知る由もない。
けれど、私は『ある剣』を巡って争い、多くの人が血を流した光景をこの目で見てきていたから。
もし、ここに来ていたのが私ではなかったら、彼のように対価として『あの剣』が奪われてしまっていたら。
剣を産み出し、守った人達は、死んでも死にきれない。
ここにいるのが、彼らではなくてよかった、と願いながらも、後に自分へ課せられるであろう対価の重さに改めて覚悟を決めた。

「あなたの対価はそのイレズミ」
「この杖じゃダメですかねぇ」
「だめよ。言ったでしょ、対価はもっとも価値のあるものをって」

次は白い人の番らしい。どのイレズミだ、と思ったけれど、流石に口に出すわけにはいかない。
黒い人とは違い、対価に口を出すところは、彼の性格故だろうか。ふわふわしているその人が初めて見せた、硬質な態度に私は目を瞬かせる。イレズミなんて、生半可な覚悟でいれるものではないだろうから、彼にとっても思い出深い代物なのだろう。
最後は仕方ない、とフードを脱いでイレズミを渡すことを承諾したようだった。背中にあったらしい、それが、魔女さんの力によって白い人から離れてゆく。そしてイレズミが離れた途端、白い人の纏う気の一端がぶわりと、大きくなったように見えた。
今のは一体何だったんだろう。私の"視る"力は本職の巫女さん達よりも劣っているから、分からないことが多いままだ。

それにしても。黒い人の時もそうだったが、出会ったばかりの赤の他人とはいえ、こうして大切なものを手放していく様を見ているのは、何だかもどかしかった。
そんな風に思っていられるのも、今だけなんだろうけれど。
さあ、次は、私の番だ。


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追加解説(2018/6/3)
※あの剣:X世界における『神剣』のこと。ある女性の体から、その人の命を犠牲に産み出された。その剣を守るために多くの人や建設物が関わっている。それだけ重要な代物である。
余談だが、Xではその他にも剣を体の中から取り出す場面もあったりする。



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