昔、昔のお話です。
ある国に、王様がいました。
でも、その王様はとても悪い王様で、自分の思い通りにならないと誰であろうと大声で怒り、信用出来ない部下をさっさと殺してしまい、自分を裏切ろうとする人間を皆の前で平気で殺してしまうような人でした。
その為、王様に仕えていた人達は、皆、意見を言わなくなり、口を閉ざすようになりました。
それから、王様は捧げ物の取り立てにも厳しく、天災があろうと、飢饉に見舞われようと、見て見ぬふりをしていました。
その為、国民はとても苦しんでいました。
神様はそんな王様の様子をじっと見ていました。
王様はいつか自分の悪い行いに気付いてくれる、そう信じていたからです。
でも、ある年。収穫の時期になっても穀物がほとんど取れませんでした。
穀物が取れない為、家畜もほとんどいません。
「これでは、王様や神様への捧げ物どころか、自分達が食べる物すらありません」
国民の声を聞いた王様の部下が王様にそれを伝えたところ、王様は大きな声で笑い出しました。
不思議に思った部下が尋ねます。
「国の一大事だという話をしているのに、王様は何がそんなに面白いのですか?」
「お前が馬鹿な事を言ったからだ。神様?何を言ってる。神様ならここにいるではないか」
それを見ていた神様が、とうとう怒ります。
『自分を神だなどと、思いあがりも甚だしい。お前は、神どころか、一国の王ですら名乗る資格はない。ようし、こうしてくれる』
すると、この時ばかりは王様に意見しようとした王様の部下の口から、聞いた事のない言葉が飛び出しました。
慌てたその部下が、今度は文字を書いてみましたが、それはどれも見た事のない文字ばかり。
それを見た王様の他の部下達の口からも、様々な言葉が飛び出します。
王様は最初、その様子をお腹を抱えて笑って見ていましたが、段々と馬鹿にされているような気持ちになり、とうとう剣を持ち出しました。
それを見た部下達は、殺されるのを恐れ、お城から逃げ出しました。
そんな事があってから、数十分経ち、数時間経ち、一日経ち、二日経ちましたが、誰一人、お城に戻ってきません。
何時の間にか、王様の側にいた召使達もいなくなっていました。
三日経ってから、ようやく王様は慌てました。
寂しいからではありません。食べ物が底を尽きかけていたので、捧げ物を取り立てに行かせたかったのです。
そこで、馬に乗って、街に出、部下を見つけようとしましたが、街は何故かもぬけの殻。部下や召使どころか、誰もいません。
そして、代わりに、見た事のない字のようなものを沢山見つけました。
その側には必ず矢印があり、矢印の先は全て国の外へと向けられています。
そこで王様は気付きました。
自分と同じ言葉を話せる人間はもういないという事に。
この国にはもう自分しかいないのだと。
「何もしてくれない神に代わって、私がこの国を治めてきたというのに。それが、何だ、この仕打ちは」
怒りに震える王様の声は、誰にも届きません。
仮に、もし、誰かいたとしても、王様の言葉は理解出来たのでしょうか。
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