風が完全に秋の匂いになり、太陽が照っても涼しく乾いた風のお陰で快適に過ごしていられる。今年の夏は記録的な猛暑だったにも関わらず、十月に入ると衣替えもすんなりと受け入れられる程にまでなっていた。お陰で混んでいる電車の中も夏程の不快な鬱陶しさはない。それでも見知らぬ人間と密着するのは嫌だし仕事にも早く取り掛かりたいので、こんな気候でもオフィスに早く着くようにはしている。そしてもう1つ、オフィスに早々に着きたいのには理由がある。

それは非常階段での煙草。気持ちのいい風を受け、その一服で頭と体を覚ます。そしてそこから一日を始める為。本当はコーヒーでも事足りるのだが、それなら朝起きた時にゆっくりと飲みたい。気軽に様々な部分の覚醒を促すのに、私にとって煙草は格好の嗜好品だから。それでもプロジェクトに就いたお陰で煩わしい雑用から逃れられ、そういったストレスから解放された為か。煙草の量は随分と減ったけれど、その一服の作用がある限り私はまだ少し煙草を止められそうにない。


プロジェクトの方も着々と進んでいた、そんなある日。いつもの朝のミーティングを終え皆それぞれの仕事にとりかかろうと席を立った時だった。近藤さんが私と土方と山崎君、沖田総悟を呼び寄せた。何かと思い近藤さんの元へと行くと話は坂本さんに関する事だった。

何やら坂本さんの誕生日が今月にあるらしく、得意先を呼んでのちょっとしたパーティを開くらしい。恐らく坂本さん自身の顔見せの意味もあるのだろう。そこに私達も招かれているので、メンバーの代表として出席して欲しいとの事だった。坂本さんは女性の顔と名前を覚えるのは得意らしいが男性の場合はそうもいかないらしい。このメンバーなら最初に坂本さんと出会ったメンバーなので坂本さん向けに丁度いいと思ったのかもしれない。


「要さん。悪いが、総悟と一緒にプレゼントを買って来てはくれまいか」
「私がですか?」


さすがに手ぶらではまずいし、土方や山崎君はこれからプロジェクトの最終調整に入る為あまり時間に余裕はないのだという。しかし近藤さんからしてみればメンバー以外の人間には任せられないという事なのだろう。誕生日プレゼントなんてよっぽどセンスの悪い人間が選ばない限り、誰が選んでもそんなに大差はないと思うのだけど。見えないところにも相手を思いやる、心を尽すというのはいかにも近藤さんらしい。私は分かりましたと言って沖田総悟と一緒に買い物に出る事になった。


「しっかし…どんなのがいいんですかね」
「そうね…。ああ、これなんか良さそう」


パーティの三日前、私と沖田総悟はとある店に来ていた。この店は坂田に頼んで調べておいてもらった店。ネットで検索しても良かったのだが、それだと宣伝ばかりで実の無い店もある。もしそうなったら最後、色んな店を巡って迷って選んでそれを元に戻す、そういった作業に追われかねない。無駄な時間や思考や労力を使いたくなどないから。

坂本さんの場合、誕生日プレゼントといっても煙草を吸うわけでもないし、ある程度の物もちも良さそうに見えた。ワインやウィスキー等の一般的な高級酒なら他の客も用意してくる可能性も高いし、ネクタイやピンや万年筆等の身の回りの物は好みがあるので止めておいた方が無難。そこで私が思いついたのは酒。しかも焼酎。坂本さんに最初に出会った時に結構な酒飲みだという事、お酒そのものが好きだという印象を持った。現に私達との食事会でも色んな種類のお酒を呑んでいたから。


店に入ると思ってた以上の数量と種類の多さに思わず目を見張った。そこで店の人にも意見を聞きながら選んでいくものの、こんなにも焼酎にも種類があるなんて。思ってもみなかった。麦、芋、米、黒糖等の一般的に知られている種類のものから、トウモロコシやジャガイモ、苺といった変わり種もある。最終的に沢山の種類の中から選んだのは、日本酒の様なすっきりとした味わいが特徴の米焼酎と、坂田が手配してくれていたらしい一般にはほとんど出回らないという芋焼酎。その二つを購入して店を出た。

店を探してくれるよう頼んではいたが酒の注文までも頼んでいてくれていたなんて思ってもみなかった。店探しの報酬はちゃんと払ったので、注文の分は、この前あの雨の中を坂田を迎えに行った事に対する詫びのつもりなのだろう。もしかしたら猿飛へ口止めしておいた分の礼の意味も込められてるのかもしれない。そう考えれば坂田らしい。



「飯でも食って行きやせんか」
「ああ、そう…だね」


オフィスを出たのが六時半過ぎ。なので買い物を終えると時刻はすでに七時半を過ぎていた。夕飯を、と言われて私はそこで初めて空腹だと自覚し、沖田総悟の提案通りに夕飯を食べていく事にした。

店を探し歩いていると大きな幹線道路に出、途端に銀杏並木が視界に飛び込んできた。空はすっかり夜空の色で、辺りも既に暗がりに覆われているものの、外灯が歩く道筋を割と明るく照らしてくれている。お陰で銀杏の色づき具合が昼間とそんなに大差なく確認出来た。綺麗な山吹色の葉が歩道をうっすらと隠し、銀呑が所々に落ちている。

そういえば大学の校内にも銀杏並木とまではいかないものの、大きな銀杏の木が何本か植えられていた。


もう十月か…

あの木なんかもきっと黄色くなってるのかな


あの時はそこにあるのが当たり前で何とも思わなかった。けれども今こうして見てみると季節の移り変わりの早さに時の流れを感じる。


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