昨日は台風が日本に上陸しここ東京は台風の直撃を免れたものの、今日はその影響としてまだ風が強く吹いている。しかしそのお陰で空には塵やのないきれいな晴れ間が広がっていた。

朝、いつもの様に電車に乗り込むと、いつにも増して密度の濃い湿気が顔と体全体を覆い尽くす。これもきっと台風の湿った空気のせいなんだろう。この時期はまだまだ暑い日が続く。いい加減涼しくなって欲しいものだと密着する体温を感じる度に思うが、特に台風の後の日は強く思う。


生ぬるい空間に身を置いていたくない

これ以上はごめんだ


それは高杉やプロジェクトの終わった後の私の仕事の位置にも言えるが。季節は変わろうとし時間も流れているのに、あいも変わらずはっきりしない、温いまま。

唯一変化をもたらしてくれそうなのは沖田総悟との関係だろうか。まあ少しづつではあるが沖田総悟によって気付かされた事や会社に来る楽しみは出来た。それはある意味自分自身が変化しているせいなのかもしれない。それはあのキスによって沖田総悟の事を考えるようになってから気づいた事なのだが。ああ、もしかしたらキス位でそんな事を考える事自体がもの凄い変化なのかもしれない。私にはそれが随分可笑しな事に感じた。


「おい、どうした」
「…ああ、何でもない」


少しぼうっとしていたらしい。数人とミーティングしている時に土方に声をかけられた。ならいいが…と言う土方はまた手元の資料に目を落とし話を再開した。そのまま同じテーブルを囲むメンバーをぐるりと見回す。ここには本当なら沖田総悟も加わっているのだが、今ちょうど夏休みを取っている為会社には来ていない。

実はあのキスをされた後から一度も顔を合わせていない。夏休みの日にちなんて分かっていたはずなのに。確信的にしてきたのだろうか、気まぐれなのか。やはり最初に会った時の「変った子」という印象は私の中では相変わらず変わりないのだが。

仕事も一段落した時だった。非常階段は風が強いと思い喫煙室に行くと土方もいた。いつものように喫煙室を一人で独占している。こうやってただ黙って煙を燻らせている様はすごく様になっている。女の子達が騒ぐのも無理はないと思うが。


「お前、今日空いてるか?」
「うん、空いてるけど何?」

そう言うと土方が久しぶりに呑みにでも行かねぇかと誘ってきた。そういえば土方にはここのところ世話になりっぱなしだったのを思い出す。倒れた後の後始末や残業、ミーティングの内容の説明等、礼がまだだ。土方といえども借りを作りたくはないし、自分の気が済まない。


「今日は奢る」
「…明日は台風かもな」


目を細めて土方が少しだけ笑った。



仕事も早くに片付け…と言っても、結局終わったのは就業時間から二時間程経ってからの事。近藤さんへの報告を終えた土方と丁度一緒になる。オフィスを出る際、まだ残っている近藤さんに一緒に飲みに行かないかと誘ったものの、今日も少し残ると言って山崎君と一緒に栄養ドリンクを一本開けて笑った。

楽しんで来いよと言った近藤さんはきっとあのキャバクラへ行く事がストレス発散になっているのだろう。人に迷惑をかけたりしなければ夢中になれる物があるのは精神衛生上においてもいい事だと思う。そう考えると私には良いも悪いも仕事が趣味の部分があるから。ある意味寂しい女なのかもしれない。けど、自分ではそれが普通だったし、こうしてたまには土方と呑みに行ったり猿飛と出かけたりもする。

素の部分で話せる人間が側にいるのは凄く幸せな事。ましてやこうして土方と一緒に呑みに行ってたりしてるのにそんな事を言おうものなら、きっと私は土方のファンから一斉に非難の目を向けられるに違いない。


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