坂田に会って何日かした七月のある日。天気も相変わらずで仕事も相変わらず。とにかくウザったくて不愉快になるばかりの毎日。

坂田に会って気持ちは少しは楽になったはずなのに、それでも癇に障る電話の音に、ハゲ課長からの生易しい声のかけられ方。そして今だに仕事を覚えない新入社員の女の子と去年の新入社員の娘。全てが私をイラつかせるというわけではないけれど、煙草の量が減るどころか増えているのは心のどこかで随分貯め込んでいるに違いない。

それでも土方は相変わらず私の愚痴を聞いててくれ、沖田総悟とは何気に仲良くやり、山崎君や近藤さん、猿飛とはそれなりに楽しくやってるのが唯一の救いだった。


そんな毎日が続く中かかって来た一本の電話。そろそろかかって来る頃だと思っていたものの、実際に携帯のディスプレイの名前を見た時は正直苦笑いを浮かべるしかなかった。

いや、自然に出たといった方がいいのかもしれない。あまりにも当たり前で、それが私のもう一つの日常だったと思い出されたのだから。


「どうしたの?高杉」
「明日六時に迎えに行く」


それだけ言うと高杉はいつものように電話を切ってしまった。

相変わらずの電話に相変わらずの会話、そして相変わらずの私達。変えようともしなければ変わろうともしない。変化という物はそれなりに労力がいるものだけれど、維持するという事はそれ以上の労力が必要になってくる。上に行く事も無ければ、下に下がる事も無い。維持というのはそういう事。

この関係を維持したまま、もうすぐ暑い夏がやってくる。高杉と出会ってからいくつもの夏を迎えたのだろう。考えるのも億劫だけれど、私には夏に向けてやらなければならない事がある。それはこの時期のある意味私への課題でもある。


そろそろジムにでも行こうかな

気分転換にもなるし…


暑くて眩しくて色んな意味で弱らないような体力作りと精神力をつける為。これがなくちゃ私はきっと夏を、高杉との夏を乗り越えられそうにない。今までもずっとそうだったし、きっとこれからもそう。これもやはり私の中で相変わらずの出来事であるには間違いない。


時間になると携帯電話の着信が一度だけプル…と鳴った。高杉が迎えに来たいつもの合図。玄関を出てマンションの下まで降りて行くと目の前にはいつもの愛車に乗り込んで待っている高杉の横顔。ちらりと私を出て来た事を確認はするものの、奴は決して車の外に出てドアを開ける、とかにこやかに微笑みかけるとか、そういった事をしない。私を見てとったら口端を上げるだけ。そして私が車に乗り込むと、


「ホント可愛げのねぇ女だなぁ」
「じゃあお好み通りにやってあげようか?」


男の車に乗り込むんだから少しは恥じらうとか、笑顔を浮かべるとか緊張した素振りを見せろ、という事らしいが私がこう言うと高杉はいつも「似あわねー事はするな」と遠慮する。奴からしたら私らしくないから、という事らしい。私は私のままでいい、と奴は遠まわしに言う。このままの私でいい、と。

高杉はこういう所でも私をよく分かっていると思う。直に褒められたり良い事を言われたりすると素直に受け入れられない、偽善に見えてしまったり逆に不信感を抱いてしまう、私のこの面倒な性格が。

だからいつもの変わらぬやり取りでも、その実裏ではこういう風にお互いの事をよく分かってる素振りが見え隠れしている。それが余計居心地がいいし、安心できる。こんな私でも受け止めてくれる、余計な干渉をしない、私を変えようとしないところが。結局高杉と会ってしまうと、高杉といる事に満足してしまい、変化や進転・それどころか後転すらしない、出来ない、望めない私達になるしかないのだ。


しかし、今日の高杉の様子はいつもと少し違っていた。それは車で三十分程走った所にある、行きつけのイタリアンレストランに行った時だった。

そこは高杉のお気に入りの店の一つ。レストランには個室も備え付けられており、食前と食後にお酒を楽しめるバーカウンターが二種類あって、シガーバーまである、まさに大人の隠れ家といった感じの店。年齢層も結構高めで、華やかでシック、そして落ち着いた店の雰囲気が高杉の好みだった。


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