連日連夜生暖かい湿気と空から降り注ぐ雨が心底私を嫌な気分にさせる。通勤の時間もそうだし、ランチをしに外に出る時もそう。その時期独特の匂いが、空模様が、空気の質感が、見上げるだけでも触れるだけでもどんよりとした気分にさせる。


また雨か

早くこの時期も終わればいいのに…


毎朝起きてすぐに空を拝むものの、その色が鉛色である事の方が多い。憎々しげに睨めつけてから支度を始めるのがこの時期の私の日課になっていた。


会社に行っても相変わらずの毎日で煙草の量も一向に減る気配がない。先月、沖田総悟から教えてもらった非常階段での喫煙も常習化しつつあった私にとっては今まで以上にこの空模様が忌々しい。何故ならあの場所は前にも言ったように外の風を受けてしまうので雨に濡れてしまう。これじゃあそこでも吸えやしない。


…あの開放感の中でまた吸いたいってのに


今となっては沖田総悟にあの場所を教えてもらった事ですら後悔するほど、あそこでの煙草の味は格別だ。今までと同じ銘柄の煙草だというのに吸う環境だけでこんなにも違うものかと気付かされた。

それでも煙草は止められない。何てったって吸わざるを得ない状況に変わりはないのだから。だから今日も私は喫煙室でその煙をまとい味を噛みしめながら吸い続ける。


一人で喫煙室にいると、


「なんだ、お前いたのか」


土方が入ってきた。やはり相変わらず同じ銘柄の煙草…。その箱のデザインを見るだけで、どうも土方の匂いを思い出してしまう程、私の中では土方=その煙草という方程式が成り立ってるいらしい。それが何だか土方の彼女の様で私は思わず笑みを零した。

すると土方が怪訝そうな顔を向ける。大丈夫か?とでもいってるように。私が喫煙室で煙草を吸っている時は疲れて何も考えず無表情なままかイライラしてるときが多いからだ。もちろん土方との他愛ない話で笑ったりするものの喋ってない状態で笑う事なんて無かったから、思い出し笑いでもしたのかと思ったのだろう。まあそれすらも私には珍しいのだけれど。


「どうした?」
「何でもない」
「そうじゃなくて、お前最近ここ来なかっただろ」
「…だから何でもないってば」


土方からしたら煙草の量が減るはずのない状況の私があまり喫煙室にいなかった事が不思議だったのだろう。土方に教えてやりたいのも山々だったが、沖田総悟との約束もある。私が言うつもりが無いのを悟ったのか土方はまあいい、と小さく吐き捨てて、いつもと同じように煙草を吸い始めた。


「あ、そういえばお前今週の金曜空いてるか?」
「何で?」


何か相談事でもあるかと思いきや接待のお供をしろとの事だった。相手は大物で、どうしてもあるプロジェクトを成功させる為に。そのプロジェクトは土方の大学の一つ上の先輩である近藤さんが仕切っているプロジェクトで、ある意味社運がかかってると言っても過言ではなく、今回はうちの方からも専務が同伴するらしい。

近藤さんの他にも土方、山崎君、そして新人ながらも沖田総悟や他の数人が残業続きで頑張っていた。実は私も少し土方の手伝いをしていた為内容は知ってるし、先方とも何度か話をした事がある。その上、女である事も考えれば事は円滑に進むと思ったのだろう。

まあ私もこのプロジェクトは是非とも成功してほしかった。人のお守りや尻拭いではなく、形に残る大きな仕事。だから私に出来る事なら何でもやるつもりだった。土方と一緒に夜遅くまでの残業も厭わなかったのもそう。奴にもそれを伝えると「悪ぃな」と言いつつ私が承諾するのを分かっていたのだろう。悪びれた様子のない小さな笑みを浮かべた。


「どうせ私が断らないと思ってたくせに」
「…まあな」


土方の事なら私も大抵の事は分かるけれど、土方も私に対してはそうらしい。。だから私が今度の接待で何を求められているか土方に説明を求める事はないし、土方もその様な面倒はしない。やるべき事は分かっている。いつものように笑って、適当に頷いて、話を合わせる。それに加えてプロジェクトの推進を図る為、ある程度の知識も必要。


今週の金曜日か…

何とかなるかな


そういえば高杉と会う予定があった事を思い出した。しかし生憎こちらの準備を優先させたい。確かに高杉の事とか準備の事なんかを考えたら厄介な役割ではある。しかし少しでも乗りかかった船だし、何よりも大きいプロジェクト。それに少しでも絡んでるだけで、私にはこの天気の中でも一筋だけれども光が見えた気がした。

私の心を弾ませるキラキラした眩しい僅かな光が。


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