世間一般ではGWというとやれ旅行だ、やれレジャーだ、やれデートだ、なんて浮かれてるけど私は違う。GW明けの仕事の事を考えると悪態を吐きたくなる。


そんなに休んでどうするの?


それでも毎年毎年来てしまう物は仕方がない。だからせめてその時期は誰にも邪魔されず、何も考えない様、私はその期間中ある人物と『籠る』事にしている。その籠り先も一緒に籠る人物もすでに三年前から決まっていて、今年もそうだ。何故かというと、私に安息をもたらすものは、その場所と、その人物しか、私はまだ知らない。


「用意は出来てる?」
「出来てる」


そう言うと「今から行く」と短く言って電話が切られた。約二十分後、愛車であるS2000で迎えに来てくれたのは学生の頃からの友人・猿飛。彼女とは同じ会社に勤めているが、彼女は受け付け嬢をやっている為、部署は違う。


「おまたせ」

そう言うと私は車に乗り込み、二泊分の荷物を車に積め込む。そして猿飛の運転で目的の場所まで向かった。



向かった先は、とある旅館。そこの旅館は宿泊する所が部屋というより、建物一棟を丸々借り上げる様なシステムになっている。要は客室それぞれが独立している。まるで家だ。個々のプライバシーが完全に守られていて、庭を眺めても隣の宿泊棟が見えない位徹底されている。隣の部屋の音や上下の部屋に気を使う事はなく、小さい子供の泣き声やバタバタと走る音が聞こえてくるといった煩わしさもないので、ここの旅館を使うようにしている。

いつもはうるさい位の方が考え事をしなくて済むのだが、たまにはのんびりと温泉にでも浸かって、上げ膳に末善で何もせず、ゴロゴロしたい。それを叶えるべく、私達は着いて早々部屋に付いている露天風呂を楽しむことにした。

風呂に入り夕方になると早速料理が運ばれてくる。食欲をそそられるその匂いだけで思わずお酒も進む。二人で喋りながらだといつも結構な量のお酒を飲んでしまうが、今日も御多分に洩れず、食事を終える頃には既にビールやワインの瓶が何本か転がっていた。

その後またゆっくりと風呂に入って部屋でくつろいでいると不意に猿飛が、


「ねぇ、あなたの所に入った沖田君てどういう子?」


そう、沖田総悟は結局うちの課に配属された。


沖田総悟…ね


猿飛がアイツ意外に興味を示すなんて珍しい。


「何?気になるの?」
「そんなんじゃないわよ。私にはあの人がいるから」


聞くと沖田総悟は土方と人気を二分する程の存在だそうで、受付嬢の女の子達の間でも話題になってるそうだ。まあ、新入社員の子らの様子から見てもそうなるのは何となく感づいてはいたけど…。確かに爽やかだし、顔もいい。ある程度の常識もあるようだ。でも、


「私、あの子とほとんど喋った事がないから分からないんだよね」
「あら。歓迎会には行かなかったの?」
「いつもの事でしょ」


そう言うと猿飛は「そうだったわね」と言った。

私はそういう風に会社の人達と一緒に呑んだり喋ったりするのが苦手だ。呑んでいる時にまで笑顔を浮かべたり、同僚の女の子達に気を使って喋ったり、上司の酒の進み具合を伺ったり、男性社員の愚痴を聞いたりするのが嫌だから。冗談じゃない。だからそういう飲み会がある時は仕事を溜めておいてわざと残業をしたり、クライアントとの打ち合わせを入れたりして、極力参加しないようにしている。

それに一度、私と土方が付き合っているという噂が流れたことがあった。そのためにある程度距離を置いて会社の人と付き合う事にしているというのもある。つかず離れず、余計な詮索はされたくない。ウンザリする。そして実際その話を聞いた時はあまりのくだらなさに恨みの言葉も出ないほどガッカリした。


誰がそんな下らない事…

ここは学校じゃないってのに


これだから会社の人達との付き合いは困る。だから会社の人の中でプライベートでも通じて付き合いがあるのは猿飛くらいだ。土方とも仲は良いけれども、休日に二人で会ったりするのは滅多にないから。


「じゃあ高杉君はどうなの?相変わらず?」


そう言う猿飛の目は噂好きな会社の人間と違って淡々とした目をしている。だから私はこの子といるのが楽なんだろう。それ故、彼女は私と高杉の関係を知っている数少ない友人の一人でもある。


「まあね」
「あなたたち結局付き合ってるの?」
「さあ…よくわかんない」
「結構長いわよね、あなた達」
「確かにね。でもそういう猿飛も相変わらず?」


そう言うと猿飛と私の視線がぶつかり、お互いニヤリと笑った。

今夜は長くなりそうだ。


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