今日は俗に言う新年度の始まり。
そして私は今日も盛大に溜息を吐くのだ。




「今日から新年度が…」


今朝の朝礼で少し頭の寂しくなってきた課長が『さあ、がんばりましょう』と念を押す様に怪気炎を上げている。


新年度だから頑張る…って、どうなのよ

いっつもやる事はやってんでしょうが


心の中で毒づいてみるモノの、悲しいかな。私の顔はもう張り付いてしまった面の様に愛想笑いを浮かべている。

そう、今日から新年度が始まる。新しいスタート、新しい生活を始める人もいるだろう。でも私はというと、いつもと変わらない日常、いつもと変わらない生活。

そしていつもと変わらないのは、


「土方ー」
「お前か」

こいつとの付き合いもだった。


喫煙室に行くと同じ課で同期入社の土方。何故か土方とはウマが合うらしく、よく二人で喋ったり、たまに二人で飲みに行ったりする。


「今日から新年度、新年度って何回言えば分かるんだろうね、あのハゲ」


このご時世なので、会社全体で禁煙を推奨していて、そこはあまり使われていない喫煙室。二人だけの空間に私はいつも気が緩んでしまい、ついつい愚痴をこぼしたりすると、土方も相変わらずのクールな表情で相槌を打ったり話を聞いてくれる。

今日も土方は苦笑いを浮かべ、いつも吸っている煙草の煙をゆっくり燻らせる。土方の煙草の匂いも相変わらずの匂いで、入社した時から煙草の銘柄を変えた事はない。これも奴の性格なのだろう、あまり変化というモノを求めないのは。


「そういえば今日から新入社員の子らが来るんだよね?」


今日から新入社員の子らが毎日毎日、交替で課の見学にわんさかやって来るのだ。そう、毎日違うメンツで。

正直、私はうんざりだ。だっていっつも面倒見なきゃいけないのは私。私は案内係専門で雇われてるワケじゃないんだぞ。営業かけなきゃいけない、新年度だから新しい事務作業だってある。そのせいで去年の今頃は残業続きで、ロクに夜桜見物にも行けなかったじゃないか。ただですら去年入社してきた娘が、未だにコピーも満足にとれないような娘。尻拭いしてんのは私だってのに。


考えたらキリがないな…


盛大に溜息を吐く。何かまた幸せが逃げてった気がするが、構っちゃいられないほどに心底憂鬱で仕方なくて。どうやら土方も同じように思っていたらしい。


「…お前、大丈夫か?」
「土方には言われたくない」
「あ…?」
「また新入社員の子らに騒がれんだろうから」


そう、こいつはクールで顔もいい、頭も切れ上司からの信頼も厚い。去年もそうだったが新入社員の子らの憧れの対象になるのは目にみえている。


「いや、今年は多分違う意味でめんどくせぇ事になりそうだわ」
「何で?」
「俺の学生の頃の後輩が来るんだよ」
「それが?別にいいんじゃないの?」
「…まぁ、お前また案内係だから会うと思うけど」
「何それ。土方も嫌な事言うんだね。私は今年はやらないよ、案内係。もう面倒臭い」


土方はフッと笑うと「そいつの名前は沖田総悟っていうから」と言って喫煙室から出て行った。


沖田総悟か…


まあ、私には関係のない名前であることを祈ろう。



…さあ、ハゲ課長から呼び出しがかかる前に仕事に戻るか。

私はたった一人の喫煙室で煙草の火をこれでもかという勢いでギュゥともみ消し、薄れゆくその香りに名残惜しさを覚えた。


[*前] | [次#]

/4

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -