私達が動き出したのは、近藤さんと会った翌日から。
近藤さんは警視庁や公安の人間を巻き込んで神威の逮捕に向けた捜査を。私はその裏で、あらゆるネットワークを使って仕入れた情報を公衆電話を使って店側に流した。
とはいっても、内容は検問の情報程度の物。他はアドバイスを求められた時に答えた、だけ。
余計な情報は与えない。余計な事は喋らない。
どれだけ時間がかかろうと、チャンスが来るまでは地道に仕事をし、地道に信頼を得ていく。
もっと大きな情報だって流せてもそこにこだわったのは、潜ると決めても薬が街中に出回るのはやはり見たくなかったからだ。
勿論、何かあった時に取引の材料として使えるから、という腹もある。
幸いな事に、私が与える情報は、それなりに重宝されたようだ。
神威への捜査が強化されていたからだろう。
店に行って渡される封筒の厚さが、それを物語っていた。
それに裏の世界からも目立った動きを聞かない。
歌舞伎町とその周辺に検問が張られても、何も引っかからないのは私のせいだと知ってか知らずか、伊東は何も言ってこない。
近藤さんは最初から私のせいだとは思ってないのだろう。あれから電話がこない。
「歌舞伎町も随分物騒になったもんよねぇ。今日も凄い数のおまわりがうろついてるみたいよ」
「でも危ないのがあまりうろついてないから、静かになった、のかしら」
「違うんじゃない?だって、歌舞伎町に指名手配犯がいるって話だから、そいつのせいよ、きっと。やあね〜こわ〜い」
「でもいい男だったらどうする?私、付いて行っちゃうかも〜」
「てめーらみてーなバケモンに付いてこられる指名手配犯の方が可哀想ってもん…」
「誰がバケモンだって…?」
「ぎゃあああああ!!」
「やだ!ちょ、ママ!やりすぎよ!」
「うるせーぞ!アゴ!」
「…アゴって…アゴって言わないでよ、ママ」
…ここの店の方が物騒だっての
自衛隊あがりのオカマのママに関節を決められている涙目のサラリーマン。それを取り囲んでいる、これまた複数のオカマ。中には涙で化粧が剥がれて男に戻りかけているオカマまでいる。
こんなの、刺激的な光景には違いない。
好きな時間に寝て起きて掃除をし、本を読み、ご飯を食べて、体を動かし、たまに病院へ行き、こうしてママの店へ手伝いに来たり、誰かの仕事の手伝いをし、傷の痛みと本来の仕事を考えなければ、普段は平和な日常生活を過ごしているといえるのだから。
でも、
「ん?そんなシケた顔して、どうかしたの?」
「…ああ、何でもない」
溜め息を吐いた。
何故だろう。
何か、物足りない。
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