自分は女だ。
それは変えられない。否定も出来ない。
女である事を利用だってしてきた。女で得をした部分だって少なからずあるし、その自覚もある。
そして今回長期療養の許可が出たのは、私が女だからだろう。
無理をして直ぐに復帰したって、怪我人の女が出来る事と言えば、後方支援が関の山だ。何もさせてもらえない。
だからあの女の子が私の代わりに来たのだって仕方がない。あそこには女が必要だからだ。
頭じゃそう分かってる。
私を退け、後任者を素早く要請した上の人間の判断は正しい。間違っちゃいない。私が逆の立場でもそうする。
そう割り切ってもいる。
でも彼女の気持ちに気付いたあの時から、胸の奥にずっともやもやしたものが溜って、晴れる気配を見せない。
それは自分の女の部分に鬱陶しさや劣等感を感じてるからでも、上の判断を利用した事に対する罪悪感からくるものじゃない。ましてや仕事を受けたからでもない。
土方君に嘘だと見抜いてもらえるだけの信頼を築けなかった。それが原因だ。
それだけ私の演技が上手かったんだ。
咄嗟の判断は間違ってなかった。
こう考えるのは神威が現れたせいで、弱気になってるだけ。
こうして余計な事を考えられるのは、心に余裕があるって事。
今はそう自分を慰めるしかない。そう言い含めるしか。
店を出て、寒くもないのに腕を胸の前で組みながら空を見上げた。
同じ空の下にいる土方君は、今、何を見てるんだろう。
翌日にくすねてきた薬を郵送で伊東の自宅に送り、二日後に結果を待っているところへ携帯が鳴った。
伊東だろうか。
そう思ってディスプレイを見ると、そこには非通知の文字が。しかも電話に出ると、相手は女だった。
でも声には聞き覚えがある。顔も一瞬で思い出せた。
「…今頃になって何?」
「先日は大変失礼致しました。お客様が言ってらした“お話”というのを、オーナーが聞く必要があると申しておりまして。どうでしょう、もしよろしければ、今一度ご来店頂けないかと…」
誰とは言わない。どの店とも言わない。どうやって携帯の電話番号を知ったのか。私が問い詰めない事に質問を浴びせてもこない。
でもあの店の女だ。しかもトイレに行くのを許可した、あの女。
薬をくすねたのがバレたのなら、電話で呼び出すなんて手間はとらないだろう。番号が知られているなら住所だって知られてる。そう思っていいだろうから。
ということは、この電話は。
かかった…
不安は拭いきれない。でも、そう確信した。
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