鼻が触れ合う直前。ホストの目の色が変わった。数センチ先にある金髪ホストの目が、普段の目に戻っている。

死んだ魚の目。そう形容出来る、いつもの目に。


息が余裕でかかる距離で、そのまま互いに無言。

でも、ホストが何を考えているのか、何故急に冷めた表情に戻ったのか、聞かなくてもその理由が分かった。


「…なんだ。する気ないの、バレた?」

「女心も分からねぇようじゃ、この仕事は務まらねぇよ」


前に軽々しい口調で「仕事を辞めてもいい」と言っていたのは、本心だったのかどうか。分からない。

でもホストという仕事は、この男にとっちゃ天職じゃないだろうか。

目の前の「女」の欲しい物を分かってるし、自分の役割をしっかりと心得ている。それに引いた一線をちゃんと守ってくれている。

様々な諦めが混じった口ぶりのホストに、思わず笑った。


「じゃあもう少し付きあって。悪い様にはしないから」

「…あっそ。じゃあ、期待しねーで待っとくわ」

「ありがと」


隣のベッドの女が大きな声で喘いでくれてたお陰で、例えベッドの枕元に盗聴器が仕掛けられていたとしても、簡単には拾えない程、小さな声で会話は済んだ。

だから直ぐに太ももに手を置かれたって、構いやしなかった。

どうせ直ぐに終わる。これくらいは別にいい。これで済むんだから可愛いもの。

視線と顔を近づけたまま、ベッドの脇にある呼び鈴に手を伸ばした。



顔の前から首筋へ鼻先を移動させていると、誰かがカーテン越しに声をかけきた。

女、ではある。でも先程案内してくれた人物とはまた違う。

顔を上げて中に入るよう言うと、先程の人と違うその女は、ベッドの脇にやって来た。

かしこまって立つその女の格好も裸に近い。彼女ら自身もサービスをするのかもしれない。


「何か御用でしょうか」

「薬ってある?」

「どういう種類がお望みで?」

「目薬」

「早速ご用意致します」


先程の案内の女からは、大概の物だったら用意が出来る、と説明を受けた。だから冗談で言ったのに、この女は事も無げに答えて微笑んだ。

ここでは色々なプレイが出来るようなので、目薬を頼む様な人間がいたって、不思議じゃないのかもしれない。

新たに聞こえてきた悲鳴にも似た声を聞きながら、そう考えた。


「冗談だって、ごめんなさい。貰ってきた薬じゃ利かないから、本当は何でもいいの」


一瞬だけ私のお腹に視線を下げた女は、表情を崩さず、また無言のまま微笑んだ。

私が何を欲しがっているのか、理解してますと言わんばかりに。


「それも多めに欲しいの。私だけ楽しいんじゃ、悪いから」

「ああ、俺の分はいらねーって。それよりビール」

「…ではお待ちを」


女はそう言って、軽くお辞儀をしてから、カーテンを抜けていった。



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