轟々と唸っていた嵐は夜と共に去り、爽やかな朝と共に目を覚ました一同は部屋を出て、オールドホームを一望できるテラスへ行ってみた。藤の予想した通り壊れた個所が幾つもあった。オールドホームはその名の通り古い建築物だ。今までもこんなことは何度も経験済み。屋根の飛ばされた離れもあり、これでは危ないので今日は皆で修繕しようということになった。
「あー!動きにくい!つーか暑ぃ!脱いでもいいよなー」
嵐の後で涼しいとはいえ、まだ真夏の季節に外で石材やら木材を相手にしていたら茹るような暑さが容赦なく襲ってくる。主に力仕事をしている安田くんは堪らないと言った感じで着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。その清々しいと言うか、惜しげもなく脱いだ姿はむさいという言葉が似合うと木陰で休憩している本好くんがぽそりと呟いた。
「暑い暑い、うるせぇ。黙ってしろ」
「お前も脱げばいいじゃん。ここ男しかいねえし」
「そういう問題か?って美作、お前まで脱いだら収集つかねーし」
「安田の言う事も一理ある!つーわけでお前も脱げ」
「なんでそうなるんだよ!」
力のない僕は裸祭りになりつつある三人から何十歩か離れた場所にいた。正直僕まで脱がされるなんてとんでもない。そういう場合の一番の避難場所になりつつある本好くんの所にいるとなんだかスイッチが入ったらしく表情は動かいていないけれど口だけ高速で動いている。
「美っちゃんはいいけど、どうして安田が率先して脱ぐのかなあ。別に藤が脱ごうがどうでもいいんだけど、安田は下まで躊躇なく脱ぎそうでやだよね。もうちょっと美っちゃんから離れればいいのに。そうは思わない?明日葉くん」
「…そう、だね」
更に続く美っちゃん講義に覚悟を決めたその時、甲高い悲鳴のような声が聞こえた。あの三人のいる場所へ視線を移すと、案の定真哉さんが怒鳴り散らしていた。そしてお昼ご飯の入っているらしいバスケットを持った花巻さんが真っ赤な顔をして逃げるように真哉さんの後ろにいた。
「あんたたち、誰も見てないからってハメ外しすぎよ!」
「だってこの暑さだぜ?気も滅入るよな〜。なあ、花巻」
「ふぇ?!わ、ひゃっ…!ごごご、ごめんなさい!」
「安田変態!とにかく服着やがれ!」
もみくちゃにされながらも死守したのだろう、よれた服を着ている藤くんが脱ぎ捨てたままだったシャツを拾い上げて思い切り安田くんの顔面にパスした。顔面クリーンヒットを食らった安田くんは反撃だと屋根の上にも関わらず軽い身のこなしでデッキブラシのチャンバラをする。藤くんは受け流すことに徹して涼しい顔をしている。
「あんたら屋根の上で暴れないでよ!!屋根が抜けたらどうすんの!」
「え?そこ?真哉さん、心配するのそこ?」
「明日葉くん、あいつらの心配をするのは無価値だわ!なんなら私が引きづり下ろしてもいいのよ?」
実は真哉さんの運動神経こそ半端じゃない。男顔負けの運動能力のくせに妙に女ぶるのだと安田君がぼやいていた。本人はあくまで女らしくあると主張して、裁縫にも力を入れているらしいが完成品を見たことはない。刀祢くん曰く、完成する前に生地がもたないのだとか。
「釘ー、投げてくれー」
「はいはい。美っちゃん行くよー」
「おー」
やっと屋根の修繕を始めた男衆三人を尻目に僕と本好くんは女の子二人の手伝い。藤くん曰く、僕ら二人が屋根に上るなんて想像しただけで恐ろしいらしい。横で美作くんが心配でこっちが心臓縮まるだとよと翻訳していた。風に吹かれて転げ落ちそうだしなとも付けたされて情けないけどまったくその通りだ。だから僕らは鏑木さんの提案で今日は天気がいいのでピクニック気分を味わおうということでオールドホームの傍に立つ樹の下にランチシートを敷き詰めた。すると程なくしてちびっ子二人が鏑木さんに連れられてやってくる。
「メシ!姐さん!きょうはなんですか!!」
「あー聞いてないや。花巻ちゃんが支度してるからもうちょっと待ちなさい!」
「姉さんは手伝えないもんね」
「うるさい!人には得手不得手があるのよ」
屋根の上にいる藤くんと偶々目が合った。するとしめたと言うようににっと笑うとオールドホームの方を指差した。多分、花巻さんのとこに行って手伝ってほしいんだろうなと理解してる自分がなんだか嬉しかった。二階に上がって台所へ行くと花巻さんが丁度バスケットに今日の昼食を入れている途中だった。
「あ、お、おまたせしてます…」
「大丈夫?手伝うよ」
「いい、の?じゃあこのバスケット、お願い…します」
持ってみるとなんとなく軽い程度で、中身は何だろうと考えていると、花巻さんが飲み物を入れた水筒を抱きしめながらサンドイッチだよと教えてくれた。沢山具を用意したの、とか美味しかったらいいな、とか最初に比べると距離のあった花巻さんといつのまにか会話が続くようになっていた。ぽつりぽつりと緩やかなテンポで会話しながらランチシートに集まる皆の方へ行くと、三人が屋根の修理を一段落終えて降りて来ていた。僕らを見た美作くんがにやりと不敵な笑みを浮かべた。
「お前ら、ホントほのぼのしてんなー。見てて癒される」
「小動物みたいだよね」
「本好まであんまりからかうなよ。二人共真っ赤になって倒れるかもしれねえし」
からからと笑う藤くんの隣りに花巻さんが俯き加減で座る。僕も空いていた美作くんの横に座った。バスケットの中身は色鮮やかなサンドイッチが敷き詰められていて、皆で目を輝かせた。頬張ったサンドイッチは適度に空いた腹にジンと染みる上に美味しくて、全員同じ感想らしく最期の方は半ば争奪戦のようだった。
「よし、じゃんけんだ!」
「何言ってるの!小さい子に譲りなさいよ!」
「分かった。この二つは分けてやろう。それ以上は勘弁しろ!」
「安田のくせにもの分かりいいな!」
「くせには余計だ!いくぞ!!」
「待ちなよ。いいかい?みっちゃんに無いってどういうこと?」
「わかったわかった!ふー、あと一つになってしまった…」
「安田食べればいいんじゃね?」
「いいのか??イケメンの割にはイイ奴だな!」
「最後のは余計だろ」
木漏れ日の降り注ぐ で笑い声が響く。




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