何度も何度も繰り返される世界で時間を刻むたった一人の自分に気が狂いそうだ。話しかけても反応は何も帰ってこない。一定の時間になるとリセットされ、また同じ一日の始まり。俺がいなくても回る世界。以前無意識に俺が望んだことではある。何もかも面倒になって眠り続けたいという願いから生まれた病魔だ。実際俺は世界から姿を消し、怠惰の庭を作りだして殻に籠った。それでも派出須先生や明日葉(と美作とハゲ)に助けられて、それからはなんとなく心の底の何かが変わった気がした。そう、こんな世界もいつか終わる。今度も助けがくるはずだ、そう信じて保健室に避難した。

----もう何度世界はリセットされたのだろう。幾回の昼と夜を一人で過ごしたか数えられない。不思議と腹は空かないから餓死なんてことはないが、一人というのは想像以上に厳しいものがある。耐えきれずに無駄だと分かっているのに保健室を出て教室に出向く。授業中の教室は先生の声とシャーペンの滑る音しか聞こえず、俺がスライドドアを乱暴に開けようが閉めようが誰も気づかないし反応しない。分かったいたのにこの胸に残る落胆といったら、掻き毟りたくなるくらい不快だ。悲しいのか腹立たしいのか訳の分からなくなった俺は教室を出ようとしてふと思った。花巻の病魔だった臆病(ぴーちゃん)が作り出したリセット・リピートの世界に酷似している。花巻も同じ行動を繰り返しているのだろうか、なんてちっぽけな期待を込めて教室を見渡すと…花巻の姿がない。この日は花巻は学校を休んでいただろうか?いや、そんなはずはない。あいつの姿は朝の下駄箱で確認した覚えがある。ということは、今回も花巻が原因なのか?でも同じ病魔に罹るなんてこと、ありえないはずだ。病魔に罹ると幾分か成長するものだ、と派出須先生は言っていた。ということは、一緒に巻き込まれているかもしれない。

弾かれるように教室から出て片っ端から全ての場所を探した。教室、準備室、職員室、はたまた校長室。動きの鈍い花巻のことだ、何処かでうろうろしているのかもしれない。時には運動場を見渡して、飼育小屋なんかにも目をやった。でも見つからない。保健室に戻って半ばやけくそ気味にベッドに体を投げ出した。教室に入った時よりも重度の落胆が押し寄せて、中身まででそうな溜息が洩れる。瞼を閉じて体内に渦巻くどろどろしたものをやり過ごそうとしていると、保健室に入ってくる足音が聞こえた。今が何時だか分からないが派出須先生が職員会議から帰ってくる時間だっただろうか?考えるのも面倒くさくなって眠れないのに音のした方に背を向けて寝た振りをしていると、ベッドを囲んでいたカーテンが静かに開いた。派出須先生はそんな行動を取っていたか?いや、声はかけてもカーテンを開けるなんてしないはずだ。驚いてばっと起き上がると、そこには俺の行動に驚く奴がいた。
「…花、巻…。お前、どうして…?」
「…っ!…わ、わたしっ…、違うのっ!ちが…っ」
目に涙を溜めはじめる花巻にぎょっとして、思いだした。あの時と同じだ。疲弊しきった俺は形振り構わず花巻に攻めよって脅える彼女の腕を掴んで…病魔を生み出した原因だったとしても改めて思い返すとひどいことしたかもしれない。でも今回は花巻のせいじゃないのは予想していた。だから端から疑う気はないし責めるつもりもない。"違う"と言っているのだからそうなんだろう。その場から逃げだそうと踵を返す花巻の腕を掴んでその場に引きとめる。力の弱い彼女はいとも簡単に止まってへたり込んだが、相変わらずの錯乱状態だ。
「花巻、落ち着け。お前も巻き込まれたんだろ?」
「はっ…は、…はぅ…。はー…、はいっ…」
「よし。…お前、今まで何処にいた?」
この幾日か、俺と花巻は見事にすれ違い生活を送っていたらしい。ずっと保健室に居た俺と違い、花巻は頻繁に場所を移していた。昼は各教室や特別教室、夜は唯一明かりのある宿直室。このリピートされ続ける世界の学校の宿直はみのり先生らしく、男の先生じゃないから安心したのだそうだ。夜は俺は陽が落ちたら寝ていたから気にしなかったが、花巻にしたら夜の学校はさぞ怖かったのだろう。最初の一日は教室で泣いて過ごしたという。勿論保健室にも来ていたらしいが、それは俺が決まって寝ている時間だったらしく、俺もリピートされている側の生徒だと今の今まで思っていたそうだ。そしてさっきまでは屋上で空を見ていて、そりゃあ俺に見つけられるわけ無いよな。
「…とりあえず、よかった。一人だと気が滅入るし」
「わ、私も、藤くんがいて…嬉しい、な」
「おう。じゃあ待とうか、一緒に」



リピート・ワールドで二人きり!

サイクル・アブノーマルデイズ





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -