「そもそも考えてもみろ。この星が誕生した時点で奇跡なら命が生まれて人間が出現したことすらその奇跡の積み重ねなわけだ。そして俺と花巻が何兆何億の人間の中で巡り合うのも砂漠の砂の中から一粒の故意に選んだわけでもない不特定多数の中から運命としかいいようのない確率で出会ったんだ。俺とお前は運命の赤い糸なんて生ぬるくなるような宇宙的次元の出会いを果たしてるわけなんだ!」

「……ふ、藤、くん?あの、もっと分かりやすく、言ってほしいかな…?」

「そうか?つまりだな、俺はゴフッ!」

カーテンに仕切られたベッドの中にはいつもと違う藤くん。とっても饒舌でいつもは言わないようなメルヘンなことを口走ってるの。なんだか鼻声なんだけど、風邪ひいてるのかな?だから保健室で寝てるのよね、そうよ美玖。具合が悪いからあんなことを言って、最後にむせてしまったんだわ!なんて重症!

「ふ、藤くん。なななんだか分からないけど、風邪薬、も、持ってくるね!」
「花巻!おい、待てって!」
「ね、寝てなくちゃ、だ、駄目だよ!」

ベッドから起きてカーテンを思い切り開けようとしているのを咄嗟に止めてしまった。こっちのほうが微妙に押し負けてるのだけど…、駄目駄目!病人を起こすなんて自殺行為じゃない!とにかく寝かせるべきなんだけど藤くんはまだ開けようとしてるしこのままじゃホントに私ごとカーテンが開いちゃう!

「あれ?花巻さん、どうしたの?」
「は、派出須先生!てて、手伝ってください!」
「そっちのベッドは…藤くんかな?」
「ふふ藤くんがっ、じゅ、重傷なんです!」

ええ?!と驚く派出須先生の声とはあ?!という藤くんの声とぶあははは!と笑う藤くんの…声?がした…?あれ?藤くんが二人いる。おかしいな。藤くんって双子だったっけ?いやいや、驚きながら笑ってるのかも…うーん…分かんないや…。

「美作!てめえ、悪ふざけもいい加減にしろ!」
「悪い悪い、ぶはっ、あー、やべー」

あれれ?美作くんもいて、藤くんと喋ってる…?ってことは、もしかしてさっきの言葉は…美作くん…?わたわたと慌てているとカーテンが乱暴に目の前を過ぎ去っていった。そこにはベッドの上でカーテンを放って美作くんの胸倉を掴む藤くんがいた。喧騒の中で相変わらず私はついて行かない思考回路をフル回転してもやっぱり空回り。あうあう言っていると藤くんがこっちに振り向いた。

「お前も鵜呑みにするな!声で分かれ」
「あう…えっと、」
「俺の言う事もあながち間違ってねえと思うんだけどな。なあアシタバ!」

僕に振らないでよ!美作くんは本当に藤くんに対しては無遠慮だし、二人の喧嘩を僕が止めることのできた試しがあっただろうか。あったとしても指折り数えるくらいだ。おろおろしている花巻さんは巻き込まれただけなのになんだか可哀想というか、若干僕と似ているのがなんとも同情心を誘う。だから先人の僕が彼女にできることはただ一つ。ここから逃げること、かな。

「花巻さん、そろそろ休み時間も終わるし…教室戻る?」
「あ、う、…うん」

ほっとしたような、予想外の展開に驚いたような反応をしながらついてきた花巻さんと廊下に抜け出すと保健室から喧騒が聞こえてきた。まだやる気なんだろうな、でも巻き込まれるのはゴメンだから僕は教室に戻ろう。すると花巻さんはしきりに後ろを振り返って心配そうに覚束ない足取りで横を歩いていた。

「忘れ物でもしたの?」
「藤くん、大丈夫かなあ…」
「…そうだ。花巻さん、僕に協力してくれない?」

これは報復じゃないのを前提にしておくよ。花巻さんが藤くんにとって特別なのはきっと確実。美作くんが女の子に対して絶対フェミニスト主義を貫くのも確実。日頃苦労を強いられる僕が二人を驚かせる計画を企てても罰は当たらないと思うんだ。花巻さんを巻き込むわけじゃない、ただ彼女がいないと成り立たないのも事実。だから皆にプラスなることをしよう。そう、サプライズパーティーのような後で皆で笑えるサプライズを、彼女と一緒に。



宇宙的恋愛論の次はビックバン的サプライズ!



20100422



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