エクストラ | ナノ


みやこさんにいただきました!




 果たしてそこにあったのは愛だろうか。平和島は思う。憎しみ合っていた二人が、たがいの存在を嫌悪していた二人が、相手の死を切に願っていた二人が、こうして命をともにする意味はなんだろう。そこに存在するものはなんだ。愛か? 殺意か? 憎悪か? そんなことは、この何年という期間の中で考えに考え抜いたものである。それでも答えは見付けられなかった。いや、見付けたくなかったのだろうか。手探りしたその先にあるなにかに触れてしまうのが、恐かったのかも知れない。それとも触れることでそれを壊してしまうことに恐れたか、傷付けてしまうことに恐れたか。答えが出ていたのならば、きっと二人の辿った道は違うものだったろうか。平和島は笑う。動かぬ表情筋をそのままに笑う。動かぬ唇を引きつらせて笑う。馬鹿な。そんな未来は起こり得ない。きっと、何度繰り返しても、最終的に行き着くのは今、現在のこの状況である。それ以外の道など、選ぶべくもない。それが自分の願望から派生する終着点であることは、理解している。
 額にぬめる液体が気持ち悪かった。平和島は右腕を持ち上げて、腕がまったく動かないことに気が付く。当たり前だ。平和島は吐息しようとして、それも不可能であると思い出した。まったく、普通に呼吸ができないというのもなかなかに不便だ。崖下に横たわって見上げていると、真上から照らしてくる日の光が眩しかった。しかし瞼を閉じたくとも、眼球すら動かないのである。平和島は苛立ったが、見上げた崖の端に折原の姿を見付けて、動きもしない瞳をすがめた。
 切り立った岩肌の向こうに、立ちすくむ折原の姿がある。彼の顔は逆光になっていたが、何故だかその表情はよく窺うことができた。折原の顔には、感情という感情を見出だすことができなかった。常からなにを考えているのか判らない男だったが、今は平和島の怒りを煽る笑みですら見当たらない。表情のない折原の顔は、ぞっとするほどうつくしかった。薄く、血の色を刷いた瞳が平和島を見下ろしている。平和島はその瞳を見詰め返して、そこに映るなにかを探そうとしたけれど、やめた。いまさらだ。いまさら、そんなものを知ったところで意味がない。そんなものがほしかったのではない。それでは、なにがほしかったのだろうか。地に横たわって、大の字に広げた腕の中にほしかったものはなんだろうか。平和島は思う。平和島は考える。こんなことをしてまでこの腕の中に抱き留めたかったものは、なんだろうか。
 折原がこちらを見下ろしている。表情のない顔で平和島を見ている。折原のあの冷たくうつくしいかんばせが、じっと、平和島を見ている。
 折原は、学生の時分から高いところが好きだった。ブロック一つぶんでも高いところに立って真っ直ぐに背を伸ばし、少しだけ危なっかしげに平衡感覚を保ったりする。悪趣味だと思った。人を見下げるのが好きなのだろう。かつて、まだまともに話をすることができたころにそう問うたことがある。折原は笑っていた。珍しく含みのない笑みを浮かべて、言ったのだ。違うよ。違うけれど、教えてあげない。
 折原が俯瞰した風景。折原の眼下に広がっていた景色。そこになにがあったのだろうと、今になって不思議に思う。今、崖の上に立ってこちらを見下ろす折原の目に映るのは、本当に平和島自身の姿だろうか。その瞳に、金色(こんじき)は映っているか?
 問えど答えが返るべくもない。平和島は人形のように動かぬまま空を見上げ、折原の視線に晒されているだけである。折原がなにを考えているのかは判らない。そんなのはいつものことだ。
 見上げた折原の顔はうつくしかった。おそらく眼球の濁ってきているだろう平和島の目にも、折原の顔はうつくしく映った。折原の影が揺らぐ。折原のにおいがした。平和島は思う。もしも自分の体が動いたのならば、腕の中に落ちてきた折原を受け止めるだけでなく、抱き締めてやれたのにと。
 それが愛だったかは知れぬ。憎しみだったかは知れぬ。殺してしまいたいほどの念だったかも知れぬ。ただ、平和島がほしかったものは、今、彼の腕の中にある。






ほんとすみませんでした(土下座)


→静雄…!良かったね静雄…!!と涙腺崩壊しました。なぜ謝るのかしら…こんなに素敵なものを書いて頂けるわたしはほんとうに幸せ者なのでむしろわたしが全世界に謝るべき。ごめんね!でも幸せ!みやこさんの素敵なサイトはこちら【寂しい深海魚】ありがとうございました!大好き!!




 

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