無垢なまま守られて育った君の、語る不幸が大嫌い。
「幸せってどこにあるのかな」
「天国とか幸せいっぱいありそうだね」
「こっちにも少しは分けてよ」
「わかんないよ。ここが天国じゃないって、誰も証明出来ないよ」
「そんな難しいことわかんないよ」
死んでみたらわかるよ、と答えて唐突に君は立ち上がった。おにぎりを咥えた私はベンチからその背中を見る。
こんなに、この子は細かったっけ。
「探してるうちはきっと見つからないんだよ」
「私たちは人の幸せより不幸が好きだね」
「夢見てる人より現実主義者のが信頼できるからじゃない」
正直おにぎりに夢中な私は脳をあまり介さずに喋っていたが、君は満足げに空を見てる。眩しくないんだろうか。今にも光に吸い込まれそうに思えるのだが。
「幸せって何」
君はきっと幸せを知っていながら見ないふりをしてる。
それを指摘なんてしない。君の人生を、赤ペンで修正する必要なんて無い。
しばらく考えていた能天気な友達は「あ」と発音してから親指を立てた。
「数学の課題が出ないこと」
「ああそれは幸せ」
本当はとっくにわかってるんだよ。
私ね、不幸に浸って、不幸にすがって、そうして居場所を守ってきたんだ。
刺激を求め続ける私は、君を非難する理由が欲しかった。そうね。
結構、滑稽な思春期。
まあ仕方ないか。ほら、繊細な時期だしね。
「私、大きな不幸も無いしなあ。結論、体験してみないとわっかんないよね」
体験してみないと分からない。
いつか体験してみたい。
ゾクリと背筋が冷えた様な気がした。
不幸だ不幸だとため息を吐きながら、傍で笑ってくれる友達の君。
君が死ねば、私は不幸を知る。
初めて、叫びだしたくなる様な、身が張り裂けるような絶望を知る。
花壇のブロックを棺桶代わりに、花に埋もれて息をしなくなった君を想像して、少し、震えた。