イヤホンコードが無駄に長い。
これで絡まること50回突破、ほどくことに費やした時間プライスレス。
まった、プライスレスはおかしい。
時間は金というように一分一秒が一億に変わることもあるのだ。
私の時間はいましかなく、この瞬間億万長者に変わる可能性だって、と。
しがないOLのご身分、で言ってみて切ないものがあるけど。
しかし私のクレームは、イヤホンからしたら大した迷惑だろう。
延長コードでのばされてまで文句を言われてる。
「あ、お姉さん、はよ。」
耳が声を認識する前に頭は全自動で動き、心の中で組み立てていた今日の計画の全てが狂った。
私は女子高生集団がざわつくバス内で、イヤホンから流れるジャパニーズレゲエを聞いてぼっちを満喫しながら読書する気だった。
車酔いなんてしないと自負してる。
「‥‥‥‥‥‥ヒッにらむなよ」
いや、そういうわけじゃない。
私は昨日あたりからいそいそと孤独にいそしんでいたので、声の出し方を少々忘れていた。
相手が男子高校生ともなれば更に。
静かにあいさつを返すと、隣の座席が埋まる。
「ね、かたっぽ貸して」
小さいころ一人でいると心配された。
つくりたくもない友達にあわせるためにすきでもない流行ものを持たされたり。
学生になると、一人でいるのが私が自然でいられる方法だった。
社会人になって、必要な人間関係を築きながら一人きりを保てるという、ぼっちのプロフェッショナルとなった。
それを個性と認めて
私を一人きりにしたまま接してくる物好きは彼が初めてだった。
日本人歌手が愛を知り尽くしたような歌詞を、恋もまだしらないような声で歌っている。
心地よく流れるサウンドと触れる肩の感触。
「お姉さん、いつもいいセンスしてる」
当たり前、といいたげな視線を返すと彼はくしゃりと破顔一笑した。
あぁ、イヤホンコードが無駄に長い。
でも明日もこのイヤホンでいよう。