「僕とあなたは心中しますよ、必ずね」

ランチタイム、彼に消化されるであろう大量の料理達は僕の視野を妨げている。前に座った彼が胃の大きさや膨張率を無視した多さの料理を摂取するのはいつもの事だ。

「へえ、なんで」

今日もまた彼のくだらない妄想に苦笑いしながら合槌を打つ。

「僕がそうしたいからですよ」

気持ちが良い程の食べっぷりの合間に彼が喋る。俺が1時間手間暇かけて作った料理達は、20分もかからず平らげられていく。だからできるだけ目を離すことはしたくない。

咀嚼音に不快感を抱かないのは彼くらいかもしれない。ふとそんな事に気が付いた。

「とんでもないエゴイストだ、早死にするぞお前」

その言葉には返事する事なく、意味ありげに笑った彼が食事を終了させる。

「世界を食べるの、いい加減飽きました。次は食べられてあげましょ?」




彼が死んだのはそれから2時間後の事だ。

体の何倍もある大きさの車にふっ飛ばされた彼の体はアスファルトに叩き付けられ、まるで地面に食いちぎられたようにして簡単に終わった。

突如訪れた不幸に世間は同情した。俺の周りには普段より人が多かったが全て無視した。死んで、そこから語られる彼の美談には興味が無かった。

自分の家、呼び鈴は彼によって鳴る事は無い。そう思えば無意味に思え、電池から抜いてしまった。ブラウン管越しの笑顔は俺の知る彼とどこか違う。投げつけられたリモコンが埋まった画面は彼をもう映す事が無くて安心した。座られる事の無くなった椅子が1つ生まれた事ももっと違う。ああ、そういえばお前が来るからってぶつぶつ文句を言いながら重たい食材を運ぶこともないのか。それなら車も売ってしまおうか。

全てが希薄に感じる。きっと「一時の迷い」とか「今はそうかもしれないけど」で皆片づけるのだろう。結果はわかってる、それなら誰に相談する事も無いか。

おかしい。

頭を掻き毟った。そういえばあいつとお揃いで染めた茶髪は、根本が黒くなり始めている。嫌だ。永遠に茶色のままであればいいのに。

彼と俺は心中する筈だったのに何故彼だけ死んでいるのだろう?

それとも俺は気が付いてないだけで、本当は死んでいるとか?

『僕とあなたは心中しますよ、必ずね』

『僕がそうしたいからですよ』

くだらない妄言の棘は、体のどこかに突き刺さって取れない。

俺はようやく、彼の真意に気が付いた。

彼は俺を愛していたのだ。

もし結ばれなくても心のどこかに残る。結ばれれば万々歳だがその可能性は低かった。もしうまい事自分が死んだら、いつまでも俺が疑問を抱えて生きて行く様に。

お前、酷いやつだね。ぼそりと呟いた。

彼の冷えた手のひらを想う。音を立てる食器を想う。綺麗に平らげて浮かべるあの笑顔を見た後で、他の誰に食事を作れというのだろう。

そのまんまだって、愛したかもしれないのに。お前、酷いやつだね。



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