Sの愛した彼女の遺書。




≪私は恋が嫌いだ。

体験してきた結果から,その行為が何よりの無駄だと知っている。

痛みと苦しみを伴う癖に大した成果が無い。あんな不合理な行為、人生の一部に組み込むには余りに疲れる。

恋愛の成果という奴は普通の女たちにとって何より大切なものらしい。逐一報告と相談を繰り返しては、割り切れる筈の無い答えを求める。

ここまで書いてしまった偏屈な私も、所詮普通の女なのだ。恋をした。

彼は一回りも年下の男の子。付き合うより面倒を見てやるといった楽しい毎日が続き、調子に乗ってねだってきた彼に笑顔で切り返した。

「貴方にとって私は母親でしょう?」

彼は何も言わなかった。それは最後に彼が見せる事の出来た誠意。私たちはそれっきりだ。

私は恋が嫌いだ。それでも恋をすることをやめられない。

それが人間という生き物なのだろう。

恋したいと恋い慕い、恋した者を愛せない。

皆、不器用な生き物なのだ。













でも

私は不器用に生きることに飽きた≫










遺言に登場することもなかったSは、最愛の人の達筆な文字に今日も惚れ惚れと見入っている。


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