チャンスはいくらでもあった。
きみが泣けば弱みにつけ込むことを考えた。
抱きしめれる距離にいつもいた。
(ねぇ、なんであいつなんだろうね)
気にくわない。
あいつが好きな色に変わる髪の毛が気にくわない。
あいつが好きな服を身にまとっていることが気にくわない。
どこ見てる?
きみは変わってく。
本当に、気にくわない。
心が狭いのはわかってる。
視野を広げろと言われたら確かにそうかもしれない。
「なぁ、あの子めちゃくちゃかわいくてさ」
冷めてくコーヒーを
微笑みながら眺める俺の目の焦点があわないことに、お前はまだ気がつかない。
そうだよ
あのバカ、可愛いやつだよ
あの子がなにを考えてるか知ってる?
あの子のした優しい行為知ってる?
あの子のなにをお前は知ってる?
独占欲だね、わかってる。
しかも本人は知らない
「ありがとう、な!」
コーヒーの表面にうつる俺の目から、光が失われた気がした。
(ははっ、とんだ茶番だ)
おれ、あの子のこと全部わかるからね
お前をすきってことも
お前が大事なもの無くしたとき、探して黙って机の中いれてたことも
あの子のことだからね、わかるよ。
(あーあ、かませ犬にもなれないわ)
(噛みつかれてるのはこっちだよ)
(見えない牙でズタズタだ)
笑顔を作るのを少し失敗して唇を噛んだ。
口内に鉄の味がひろがって少し胃がすくむのを感じた。
かき混ぜたコーヒーの底
砂糖がざり、と音を立てた。