僕が死んで七度目の夏が来た。
「君も飲む?」
僕を殺したあなたは、今日も優しい。
背後に燦々と照りつける太陽を背負うあなたの顔は自然と影になる。それでも笑んでいる事は伝わってきて、少し胸が痛んだ。
一片の曇りや迷いが無い表情。かつて彼はその表情のまま僕の首をボキリと折った。
痛みや苦しみの類いは覚えている限り無かった。というより、彼から落ちてきた汗の滴が頬に当たる感触がきもちいいなぁ、と思っている間に僕の前頸部に彼の指が落ち込んでいたんだ。
あなたはいつだって面倒事をあっさり済ます。
僕であったものだった体はとうの昔に腐り果て生き物であった事を主張する様に異臭を放ち、最早異形扱いされても仕様の無い姿をしている。
それを気にすることも無く、あなたは鼻唄を歌いながら僕の分まで料理している。
ふと、家族とか友人とか僕にとって唯一無二の関係の人間達を思い出そうとしてみた。彼らは綺麗で輝かしすぎて顔すら見えない思い出の一部へと変化していた。
積み重ねて来たそれらを取り戻す事無く、このままぬるま湯の中で動かないのも悪くないと思った。適応できる場所なら人はそこに留まろうとしたがるんだろう。
「ご飯出来たよ」
あなたの声で何もかもがシャットダウンされる。機能切り替えで、愛しいあなたを見る。
僕はもう、ここに居たらそれでいいのかもしれない。
ところで僕の目はとっくの昔に腐り落ちてるはずだけれど、それならあなたを見ている僕とはどこにいるのだろう?
食器を並べるあなたの耳元に唇を寄せ、月9で聞き飽きた愛の言葉を紡ぐ。
あなたは振り返り、僕を通りすぎて僕の死体に愛を囁いた。
引き替えのように僕の嘆息。勿論あなたには聞こえない。
温度の無いフローリングを裸足で歩く。正しくは消えたなのだろうか、もう時間と温度の感覚がないので良く解らない。
今ではあなたが近づかない寝室。あなたはその自分の行動に疑問を抱くこともない。ソファーで眠るのがまるで前からの習慣だったように信じ込んで疑わない。
「ねぇ」
開きっぱなしのドアの隙間から見えるものへと少し苦笑いしながら声をかけた。
それができた理由を僕は知っていた。あなたの生活はプラスアルファによって成り立っていたのだ。食事だって、生きるための動きだって、僕がいないから無価値だと思ってしまったあなたは餓死するまで幸せそうに微睡んでいた。
「あなたになら聞こえるの」
あなたの死体は肯定を示す事もなく、動かずただそこにある。


カーテンを開けるあなたを見ながら、そんなに身長が高かったっけという疑問譜にまみれている間にあなたは朽ち果てた僕におはようを言ってる。
キス、しにいかなきゃね。
くるりと寝室に向かう僕を、あなたは見る事も触る事も叶わない。


僕を殺したあなたは、今日も優しい。
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