結果的に君が泣く事を考えれば、殺しておいた方が良かったんだよね。
だから後悔なんてしていないよ。僕の世界では僕が裁判官だ。僕を裁くものがいるなら、それは理不尽って名前をした暴力さ。



最後の会話はなんだったろうね。
毎回お決まりの急拵えの甘い魔法が解けた朝、スルリとベッドを抜け出した君はさっさと身支度を整え、僕はその背中を眺めていた。
浮き出る肩甲骨が動くのを見ながら、昨日舐めたその部位の味を思いだそうとしたが出来なかった。
細い首筋を見ていると絞めたい衝動に駆られる。唐突に湧いてくるそれは欲情と良く似ていて、稀に僕はセックスの時に彼の首を絞めた。
君はいつも心底驚いた表情をする。まるで、自分が殺されるなんて思っても見ない様な、いや、あるいは目の前に僕がいる事すら曖昧にした一人の世界で快楽に耽っていたのを邪魔された様な、そんな不満げな表情に段々と変わっていく。
君というのは何時もそうなのだ。自分が全て。自分を形作るパーツとしてどうしたって僕を必要とする。ただ同じ型の部品が現れたらあっさり乗り換えるだろう。そしてそれを僕は不満には思わない。
これを愛と呼ぶのはおかしいと、どこかのスイカが鳴いていた事を思い出す。そう言えばそれは僕の元恋人の女の子で、関係を元に戻さないと僕と君の事を至る所にバラすそうだ。煩いスイカもあったもんだね。
それは割とマズい事のだけれど、まぁ僕は構わない。
職場も住所も変えたら死ぬなんて事はない。ただ、君は違う。
君はまだ青年で、将来が定まってない。今からその道は限りなく広がっていく筈なのに、それを応援している僕の存在が彼の道に茨を敷き詰める。
君の体温の残るシーツを撫でる。アイロンを掛けられたシーツは四隅をピンと張られ、しかしその独特の固さは肌に馴染んで、僕は安心しきって目を閉じた。
そうだ。今日はいい天気だし、歩いて棒を買いに行こう。



スイカ割りをしてきた僕を見て、君はしばし絶句した。
仕方のない事だと思う。スイカ割りなんて高校生の時以来だし、ジャケットを脱いだだけでやったからワイシャツには飛沫となった果汁が飛び散っている。完全に社会人が後先考えないではしゃいでやってしまったパターン。自分の事ながら苦笑いした。

ねぇ君、聞いてよ、スイカ割りしちゃったんだ。それがね、スイカは元から割れてるんだよ。ぱっくり、横に一直線にね。割れた部分からね、余計な事を、ああ君にあまり聞かせたく無い内容なんだけれどね、それをベラベラ喋るんだ。まるで壊れたラジオみたいに止まらなくてね。もう、そいつがあんまり煩くって早く割ってやらないとって思ってね。狙いを定めたつもりだったんだけど、間違えてしまって。スイカがコロコロ逃げ回るからいけないんだな。やっと追い詰めて割ってやった時には、何でかもう既に丸くは無かったんだけどね。
あれ、君、聴いてる?
ねぇ、そんなに逃げないでよ、君。追いかけっこは得意じゃない。恋愛に関しても君が追いかけて来なければ興味を持たなかったくらいなんだから。
寂しいのは嫌だからさ、まぁ最初にすり寄ってきた寂しがり屋は君なんだけど、ね。いい思い出だね。ねぇ、君。そんなに警戒して窓際に立つの、猫みたいで可愛いけど、危ないよ。こっちへおいで。
ほら、そんなに泣かないで。大丈夫、いつもの様に抱き合おう?シーツは冷たいけど、すぐに暖まるよ。僕は君の全部が愛しくて愛しくて、たまに堪らない気持ちになるんだ。
ねぇ。
ねぇ、君。


愛妾、君の体温の残るシーツの海で、溺れ死にたい。


君はもういない。
君はもういない。

また淋しい夜が呑み込もうとぽっかり口を開けている。
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