「え、なにその爽やかな顔……俺のこと『可愛い』とかキモチワルイ……」
 臨也が全力で引いている。
 青ざめた顔をして鳥肌でも立ったのか、ブルルと身震いまでしている始末だ。
「だってよ、刃物突きつけてくるイコールこっちを向け、だろ? ……可愛い愛情表現じゃねぇの」
「完全なる勘違いだよ! 死ねよバケモノ近づくなっ!! っ離してよ!」
 近づくなと言うのが少し遅かったようだ。
 静雄は退こうとする臨也の両肩を、逃がすまいと正面からガシリと掴んだ。……いや、ミシリ、のが正しいかもしれない。
「な……なに、この体制……? ……い、言っておくけど、君とキスなんて真っ平ごめんだよ!?」
「それを自分で言うってことは、してほしいんだな?」
「ううん違うよ。俺、日本語で喋ってる。勝手にシズちゃん語に訳さないでもらえるかな?」
「素直になれよ」
「頼むから俺の話を聞いて! シズちゃんとここまで会話が成り立たないなんて、俺思ってなかったよ!?」
「……るせぇな……。やっぱりアレだな。手前の口を黙らせるにはその口を塞ぐしか、」
「キスに理屈付けるな!」
「……だよな。俺もキスに理屈はいらねぇと思う。キスする理由なんて、好きだからに決まってるじゃねぇかよな?」
「……俺、今猛烈に吐き気が込み上げてる……」
 ここまで来たら、流石に臨也が可哀想に見えてきたね。
 でも私は、あくまで臨也の友人であるし、静雄の友人でもある。
 友人として、僕はある言葉で二人の背中を押してあげることにした。
「――やめなよ、静雄」
 いつもと変わらない調子の僕の声は、思いの外その場に澄み渡った。
『新羅っ……!』と僕の名前を口にして目を輝かせる臨也に、こちらを振り返る静雄君の怒りに満ちた目。
 四つの眼球が、僕を捉える。
『……新羅』
「大丈夫だよ、セルティ」
 静雄の燃えたぎる瞳に危険を察知したセルティは、不安な様子で僕の顔を伺う。
 僕はそんな彼女の肩に手を添えて、もう一度言い聞かせるように『大丈夫』と囁いた。
 二人に向き直れば、静雄は今まで臨也に向けていたであろう憎悪の瞳で、僕を睨み付けていた。
 そんな静雄君に対して、僕は、
 にんまりと微笑み、右手の人差し指を立てて、言ってやったのさ。
「そういうのは、家でやるべきじゃない?」
 ――ってね。
 いやぁ、臨也の豆鉄砲を食らったような顔は、実に滑稽だったよ。
 ふふん、と得意気に鼻で笑ってみせると、静雄君は顎に手をあてて考えを巡らせた。
 そして
「新羅の言うとおりだな」
 と言って頷くと、未だフリーズしている臨也を軽々しくヒョイと肩に担いだんだ。
 その衝撃で、漸く我に返った臨也はジタバタと暴れて抵抗をする。
「なにしてんの!? 脳味噌どこに捨ててきた平和ボケしず、」
「平和主義だ」
「どっちでもいいよ! どうでもいいからさっさと下ろせ! 下ろしてよ! 助けてセル、」
「生憎、セルティはこれから私とデートなんでね。とある村に武器を装備して、二人で愛の逃避行の旅をするのさ。その逃避行の旅を邪魔してくる奴らを装備した武器で――」
「この廃人! 人でなし!! かつての級友を見捨てるなんて!」
「見捨ててはないよ。だって静雄も級友だし」
 米俵のように担がれた臨也と、それを担いだ静雄の姿が街中へと消えていく。
 喚き叫ぶ臨也に飄々と手を振って二人を見送った僕は、置いてけぼりにされているセルティの手を取った。
「――さ、帰ってゲームデートでもしようじゃないか。セルティっ♪」

 ――『恋は思案の外』という言葉を知っているだろうか?
 恋は常識では律しきれないって意味なんだけど、ご存知ないだろうか?
 まあ、どちらだっていい。
 恋というのは、神秘的なものだ。
 恋は理性を失わせるだとか、恋は魔物だとかいう言葉があるけど、僕は否定しない。
 だけど思うんだ。
 恋に理性を失わせる作用があれど、人を脳から食らう化け物であれど、
 君との恋なら、それでも構わないってね。
 君とこうして肩を並べて歩けるなら、それだけでいい。
 彼女がバイクを操作して、男の僕が後ろで彼女にしがみついているっていう、情けない光景だとしても。
 僕にはそれが幸せだ。
 セルティがいればそれでいい。
 静雄と臨也だって……きっと
「セルティ」
 きっと、幸せを分かち合える仲になれる筈さ。
「……――愛してる」
 まあ、二人が悪い意味で組んだら、池袋を中心に崩壊していくんだろうけど。
 二人が愛し合うことによって、暗黒の世界が築かれないことを祈るとしよう。
 恋は心の外。色は思案の外。
 それでいいんじゃない?











タイトルの意は、
『かわいさ余って憎さが百倍』ということわざを勝手に変えたものです←
もともと、この言葉の意味は
『かわいいと思う気持ちが強ければ強いほど、なにかの事情で一旦憎いと思うようになると、その憎しみは百倍ほども激しくなる』
ということなんですが、私はその逆も然りと思います。
だって、『かわいい』を『憎い』に、『憎い』を『かわいい』に置き換えて意味を読んだら、
『憎いと思う気持ちが強ければ強いほど、なにかの事情で一旦かわいいと思うようになると、その愛しさは百倍ほども激しくなる』
ですよ?
シズイザっぽくありませんか?笑

余談ですがこの言葉を英語にすると、
『The greatest hate proceeds from the greatest love』
です。
これを日本語訳すると、
『最大の愛から最大の憎しみが生じる』

ちなみにあの後、臨也はせめてもの抵抗としてジャックナイフを静雄の背中に力一杯振り下ろしましたが、ジャックナイフの刃の部分が見事に折れたという裏エピソードがあったり。
きっと静雄の筋肉(皮膚)は、テンションの持ちようによって硬化されるのだ、と言い張ってみる←

『平和ボケ静雄』と『平和主義静雄』は、
現在ルーズリーフに書き留めている長編小説・『響け僕らの三拍子!!』に臨也の科白で出てきます。
『響け僕ら〜』は、デュラで吹奏楽をやる学園ものの青春物語(?)です。
いつか連載したいものですな(´∀`)←

長々と失礼致しました。

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