※吸血鬼と狼男(人間)パロ
※書き方がいつもと違います






白くきめ細かい肌。
細い首筋。
おまけに甘い髪の香りって、こんなに美味しい話はないだろ。

今宵みたいな美人は久々だ。
素晴らしい『御馳走』。
美人はやっぱりいい。

一頻り汗と混ざった髪の匂いを嗅いで、俺が目を付けるのは当然首筋。

ああ、やばい
早く『いただきます』したいな
堪んない。
でも、まだだ。
こうゆうのは品が大事だからね。紳士らしく振る舞わなきゃ。
俺達『吸血鬼』は、某野蛮な種族とは違うんだから。

柔らかい首筋を舌で撫でる。
女が色気を含んだ声を漏らしたけど、そんなの俺には関係ない。


「――ね、も……首はいいよ」


行為に夢中になってた俺を、促すような女の声が引き戻す。

ああ、もう。黙ってろよ。
そんな顔で誘惑したってさ、俺はあんたの求めていることはしてやらないよ?
俺がしたいのは、あんたを文字通りの意味、『喰いたい』だけさ。

頬を撫でる繊細な指。
俺とは違ってまだ温かい。


「でも、まだ。もっと君を味わいたいの」

「……そう」


わざと甘えるように囁けば、女が俺に再び身を委ねる。
体を後ろに傾けてやれば、白い首が月明かりに照らし出された。
『吸血鬼みたい』
そう言って嫣然とした笑みを浮かべる女に、思わず苦笑する。
この女が馬鹿であったことに、まず感謝だ。
女の頭の中にある、あまり使われていそうにない脳味噌に同情。
だって、この脳味噌は、まともに機能できずに死んじゃうわけだからさ。
……ま、妙な弔いはこのへんにして、さっさと頂いちゃうか。
今宵はなんだか、いやーな満月だしね。

導かれるようにして、咽もとに顔を寄せる。
俺の吐息がかかって、女がヒュッと息を飲みこんだ。
僅かに動く咽。ああ、興奮するなあ。堪らない堪らない。

緩む口元から、鋭い牙を覗かせる。
あと少し。あと少しで――



ガシャアァン!!!



全てを台無しにするような、うっさくて耳障りな大きな音。
名残惜しくも、音のした方向に顔を向ければ、ベランダが無残に破壊されていた。


(あー、サイアク……)


そこにいたのは大きな男。
ボサボサの毛並みの耳がついた、
ボサボサの尻尾を逆立てたバケモノ。


「俺の村で優雅にディナータイムか? 下劣で卑怯な吸血鬼さんよお」


そいつは凶悪的な笑みを浮かべると、愉しげに言葉を吐き捨てた。
女の体が堅くなる。


(だからこういう月の日って、イヤなんだ)


女が――今日の特上の『御馳走』が、俺の腕から抜け出してしまう。

急展開の状況に、俺の意識は既に女になくなってしまっていた。
なんというか、そう……。
一言で言うなら、萎えてしまったのだ。


「ぐあぅ!!!?」


あら、残念。
女は結局死ぬ運命だったらしい。
駆け出した女の腕を、神速の速さで先ほど現れた男が引っ掴み、そのまま強引に抱き寄せると、首をへし折らんばかりの勢いで噛み付いた。


「ぃ、あ、……かっ……ぐ……」


――なんて醜い顔。
――なんて野蛮なやり方なんだ。
俺は女の腕がダラリと無気力に垂れるまで、その光景を眺め続けた。

女の血を一滴残さず飲み干した獣の男は、空になったボトルを放るように、女を離した。
ゴシリ、と乱暴に口を拭う。
下品だ。
いかがわしい。
汚れてる。
最低だ。


「あーあ、綺麗な姿がこぉーんなことに……。可哀想にねぇ……」


軽く跳躍して、転がされた女の傍へ優雅に着地すると、男はまた嘲るように笑った。


「容姿なんて、食っちまうんだから関係ねぇだろ」

「おやおや、食欲旺盛だねぇ〜。これだから狼は……ヤんなっちゃうよ」


肩を竦めて、呆れるように呟けば、やはり男は……狼男は、愉しげに笑う。
何がそんなに楽しいのか、俺にはよく分からないけれど。


「なあ、手前」

「なにかな?」

「狼(俺らの種族)って、どんな味がするんだろな」

「……」


また突拍子もないことを……。
俺は意味の分からない笑顔を浮かべる、憎き宿敵を疎ましげに眺めつつ、仕方なく質問に答えてやった。


「さあ? 俺には見当もつかないね。つか……つきたくもない。野蛮人の肉なんて食べたらお腹を壊しそうだし、それ以前に、まず口に入るもんじゃない」


「……だよなぁ」


癇に障ることを言ったつもりが、依然として男の顔から笑みは剥がれ落ちない。
癪だ。癪な笑顔だ。


「じゃあよ、」


気味が悪いくらい、耳を通り抜けて頭に響く、声。
ゾワリとしたものを感じ、改めて視線を少し持ち上げれば――

ギラギラとした瞳で、狼が、犬歯を出して――笑っていた。


「吸血鬼の血は――どうなんだ?」


タブーだろ、その質問は。
頬に嫌な汗が浮かぶ。
後退りをしてみても、狼男はジリジリと迫ってくる。


「なあ」


畳み掛ける調子で言葉を紡ぐケダモノに、俺の体は初めて、『恐怖』というものに支配された。


「吸血鬼は美味ぇのか?」


不吉に口角を吊り上げて、
笑みの色を濃くする狼男。
その姿は、嫌な満月に、よく映えて見えた。……...





a bloodthirsty gobin……血に飢えた化け物
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