18 一瞬の間に 目を開けると、コンクリートの地面が目に映る。立ち上がろうとして、手が動かないことに気付き縛られてることを理解した。足も同様に。 「もうちょい前!もうちょい!」 「前!前!前!」 「ちょっと左に回れ」 「あと少し」 そんな声が聞こえてきて、なんのことかと思ったら目の前には目隠しをして鉄筋を持った人。 まるでスイカ割りの如く。 「ここだあっ!」 その鉄筋は容赦なく私の足に降ろされた。 『あああああっぅ…』 足に激痛が走る。 「そこ足だっつーの」 「おっしー!」 「体をもうちょい左に回転してもっかい」 「そこそこそこ!!!」 『がはっぅぅ…ぁ…』 今度は横腹に命中。叫びは声にならずむせ返り、吐血する。 周りを見渡すと、結構多くの柄の悪い人達。 決して私に目を合わせないようにしているのが分かる。 何故、私の能力を知ってるのかも分からない。 本当に本当に楽しそうに下卑た笑いをする人達。 私は必死に痛みを堪える事しか出来なかった。 助けて。助けて。助けて。 そう心の中で繰り返して、ふと頭に浮かんだのは静雄さんだった。 静雄さん助けてーーー *** 名前を家まで送って帰宅。 さっきまで騒がしい中にいたせいか、名前といたせいか一人の部屋はいつも以上に静かで寂しい気がした。 本当に楽しかった。 そして、好きと伝えてしまった。 困ったかもしれない。悩ませたかもしれない。苦しませたかもしれない。 あとからあとから心配事は留まる事を知らなかった。 でも、一切後悔はしていない。 着替えて楽な格好になり、冷蔵庫に入れてあったコーラをコップに注ぐ。 不意に鳴る携帯。 画面を見ると名前から。 静「もしもし名前?どうした?」 「残念でしたー!貴方の愛しの彼女は今俺らの目の前にいまーす!」 静「あ?んだよそれ。ふざけてんじゃねえぞ」 「本当に大好きだねえ?何もされたくなかったら1時間以内に◯◯倉庫に来てねー。ま、俺ぁちょこっと短気だから貴方が来るまで無事とはーーーーーー」 胸糞悪い。意味わかんねえ。 名前は関係ないだろ。なんで、なんでこうなった。なんで。 俺は携帯を握りしめて家を飛び出した。 *** どれくらい経っただろうか。私で遊ぶのも飽きたのか、それぞれ駄弁っている。 奥に見える大きな鉄扉がガラガラと開いた。 逆光で顔は分からないけど、シルエットだけで分かる。静雄さんだ。 『静雄さん…』 そう呟いたら涙が溢れた。 「やっと来たか待ちくたびれちゃったぜノロマ」 ゲタゲタと笑う人達。 相当距離は離れてるけど、怒っているということがよく伝わってくる。相当怒ってる。 「いくぞ」 その人の一言で、その場にいた全員が静雄さんに襲いかかる。 静「ああああぁぁぁぁああああ」 あっと言う間に静雄さんは蹴散らしていく。殴り飛ばしていく。 ものの数秒で静雄さんに襲いかかる人は誰一人としていなくなった。 静雄さんに殴られて気絶している者。 静雄さんの力に恐怖して逃げ出す者。 静雄さんが私の方へ歩いて来てしゃがむ。 静「…ごめんな」 その声は聞き取るのがやっとな程小さく、かすれていた。 顔を見ると悲痛な表情。 『助けに来でくれで…ありがと、ござ…ました』 さっき流れ出した涙は留まる事を知らなかった。 静雄さんは私を拘束している紐を解いてくれている。 かたくきつく結んであるせいか、なかなか取れない。 静雄さんの肩越しに迫りくる人影が目の端に映る。 その人は鉄筋を振り被って明らかに静雄さんの頭を狙う。 静雄さんが殺される。大好きな静雄さんが殺される。殺される。殺される。殺され…殺さ…殺される前に殺す…殺す殺す ーーー私が静雄さんを守らなくちゃ 一瞬の間に恐怖は殺意へと変わる。 襲い掛かる人の目を見る。 鉄筋が静雄さんの頭の直前で止まり、ぴたりと動かなくなる。そのうちハラハラという音を立てて末端から砂状へと粉々に地面へ落ちる。 その人、いやその人だったものが全て砂へと変わった時に私は我に帰る。 人を殺めてしまった。 『あ…ぁっ…うああああぁぁぁぁあああああぁぁぁああああ』 私の視界は強制的に閉じていき、そのまま意識を手放した。 [しおり/戻る] |