風が暴れている。それはもう、台風以上の暴風だ。
一応雨戸は閉めているが、それでも窓の隙間から耳障りな音が聞こえてくる。

(風速何メートルくらいで吹いてるんだろ…)

あまりの暴風っぷりに眠れないでいると、枕元の携帯電話からメールの着信音が鳴り響いた。
携帯を取り差出人を見ればこんな夜中だと言うのに寝もせずに、暇を持て余しているらしい良い大人の名前が表示されていた。

『風が五月蠅くて眠れないんだ。という訳で帝人君、チャットでもしない?』

そんな文言がメールの本文に書かれていた。
まあ、眠れないのは此方とて同じだ。断る理由もないので『いいですよ』と返信した。
すると1分と経たぬ内にまたメールが送られてくる。

『早くチャットルームに入ってご覧』

言われずとも入室するが、彼がこんな風に催促するとはチャットルームで何かあったのだろうか。
PCを点けて、いつものチャットルームに入室する。
その過去ログには─────


バキュラ『太郎さん、誕生日おめでとうございます』

罪歌『太郎さん、おたんじょうびだったんですね』
『おめでとうございます』

セットン『太郎さん誕生日おめー』

狂『お誕生日誠におめでとうございます。この祝福された佳き日に居合わせられた事、神に感謝致しますわ』

参『おめでとー』


チャットルームで馴染みの面々が、自分に対して祝いの言葉を書き込んでいるではないか。
これを見て彼は早く入室しろと言ったのかと、帝人はふ、と口元を緩めた。
とりあえずそれぞれに謝辞を述べて書き込むと、内緒モードで彼が語り掛けてきた。

内緒モード 甘楽『誕生日おめでとう、帝人君』
内緒モード 田中太郎『ありがとうございます。もしかしてこれを見せたくてチャットに誘ってくれたんですか?』
内緒モード 甘楽『うん、まあね。折角の誕生日がこんな大荒れの天気じゃあ、流石に気分が沈んでるんじゃないかと思って』
内緒モード 田中太郎『臨也さんにも人に遣える気なんてあったんですね』
内緒モード 甘楽『君限定だけどね。他人にはこんな人の善い事しないよ』
内緒モード 田中太郎『はあ…』
内緒モード 甘楽『ああそうそう。後で君の家に行くから』
内緒モード 田中太郎『え、何しにですか』
内緒モード 甘楽『直接会って祝いたいのさ』

そんな気を遣わなくても良いのに、と思うが祝われるのはやはり悪い気分ではない。
それが、好いている人間からであれば尚更だ。頬を桜色に染めながら、帝人は小さく笑った。年相応の、子供らしい笑顔だった。

内緒モード 田中太郎『じゃあ、お待ちしてます。来る前に連絡下さい』
内緒モード 甘楽『ああ、わかったよ。ついでにケーキでも買って行こうか』
内緒モード 田中太郎『お任せします』

内緒モードでの会話を切り上げて、暫く甘楽と田中太郎として通常通りに会話をし、2時間程経過した頃には暴風はすっかり収まり晴れ間が覗くようになっていた。

臨也が来るのが何時頃になるかは分からないが、風とチャットで殆ど寝ていない為昼くらいまで寝てようかと、帝人は布団に潜り込んだのだった。






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