「じゃあ次、問2をみょうじ」
「えっ」
明るい日差しが差し込む昼下がりの教室。相当ぼんやりとしながら受けていた数学の授業中、私は突然呼ばれた自分の名字にびくりと体を動かして気の抜けた声を上げた。

驚きのあまり頬杖をついていた手から頭がずれ顎が机にぶつかりそうになるのを慌てて回避する。間抜けな返事に対するお咎めの言葉は幸いなことに無い。わたわたとしながら視線を教壇の前に立つ先生と教科書の間で何度も行き来させた。
まずい、全く話を聞いていなかった。問2の答えどころか今教科書の何ページを解いているのかさえ分からない。助けを求めるべく必死の表情で隣の席のモブ君を見ると、彼は冷や汗を流しながらぶんぶんと首を横に振った。ブルータス、お前もか。お前も聞いていなかったのか。
「みょうじ、問2だぞ」
中々答えようとしない私に痺れを切らしてもう一度尋ねる先生の声に前を向いた。どうしよう。 先生は決して厳しくないし、正直分からないと言っても怒られることはないだろう。でも実はこの前の授業でも私は半分寝ていて注意された上に少し前にあったテストでもかなり点数が悪かったので、さすがにこれ以上印象を悪くするのはまずい気がする。何より、担任のこの先生の事が私は決して嫌いではないので、ダメな生徒だと思われるとちょっと悲しいのだ。好きならちゃんと授業聞いてろよという感じなのだが、それとこれとは別の話。

どうしようどうしよう。まずい。どうしよう。背中に嫌な汗をかきながら心の中で何度も同じ言葉を呟いても答えが分からないという事実は変わらない。…もうこれは諦めるしかないか。堪忍して席から立とうと思ったところで妙な感覚が体に走った。
自分の意志ではない何かによって身体が動かされる。私自身が足に力を込めようと意識する前に、両足は教室の床を踏みしめ席から立ちあがった。
一体何が起きているのか。呆気に取られて自分の足を見下ろそうとするも頭が動かない。混乱が深まってきたところで勝手に口が開いた。
「xイコール4です」
えっ?
「正解。座っていいぞ」
自分では言えるはずもない全くもって予想外の言葉は音を為し、思わず発したはずの驚きの声は声帯を震わせる事さえしない。先生の許可に私の体は依然勝手に席に座り、背中が椅子の背もたれに触れるのと同時に金縛り(?)は解けた。

一体…どういう…
呆然と自分の体を見るのと同時に隣から向けられる強い視線に気付いて、私は横を向いた。モブ君がこちらを凝視している。当たり前かもしれない。明らかに答えを分かっていないはずなのに淀みなく先生に答え、しかもその解答は当たっていたのだから。
心なしか私の頬のあたりを見ていたモブ君は私が見返すとはっとした様子で目を逸らし、何故か私の頭上のあたりをきっと睨んだ。 何かあるのかと上を見ても目に映るのは汚い教室の天井ばかりで、私はなんだかかゆい気のする頬をぽりぽりとかきながら黒板の方へと視線を戻した。

立派になりたきゃもっとちゃんと授業を聞きな…

やけに良い声で、そんな天啓が聞こえた気がした。
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