雪の降る朝、駅前でしゃがみこんでいるのはみょうじなまえだった。なまえは私物やアスファルトの上でスカートが擦れて汚れることも厭わず、鞄の中身をひっくり返して慌ただしく確かめている。ノートの内側や財布の中身、自身の身に纏う制服のポケットに至るまで確かめたあと、なまえは大きく肩を落として声を上げた。
「受験票落とした〜〜〜〜〜!!!!!!」

なまえが不安に駆られたのは電車の中でのことだった。今日は受験の当日だ。なまえは運良く座れた座席で単語帳をめくりながら、同じ車両に乗っている制服の子たちの様子を見ていた。この子たちも今日受験なのだろうか。同じ駅で降りたらビンゴだよね。そんなことを考えて、ふいに「そういえば受験票いれたっけ」と気になったのがきっかけであった。そして目的地である学校の最寄り駅の前で、まだ雪の残るアスファルトに膝をついて、慌ただしく鞄の中身を確かめた冒頭に至る。



珍しく早起きをしたエクボは調味市内をふよふよと遊覧していた。そもそも霊体であるエクボに睡眠、ひいては早起きという概念があるのか甚だ疑問だが、今回はそこには触れないことにしよう。雪の降る、一段と冷える朝だ。エクボは調味駅の上空から、ホームに立つ一人の女生徒を目にした。みょうじなまえ。エクボが行動を共にしている影山茂夫の同級生だ。茂夫との出会いから一年が経ち、彼らも受験生と呼ばれる身分になった。今ホームに立って参考書に必死に食らいついているなまえを見て、茂夫も毎日勉強してるもんな。と家での茂夫のことを思い出した。
その時だった。なまえが読んでいた参考書をしまい、単語帳を取り出したときに事件は起こった。ひらりと一枚の葉書のようなものがなまえの鞄から落ちたのだ。なまえはそのことに気付いていない。エクボはすぐさま拾って渡すべきかと思案したが、ホームに電車が入ったことで葉書はそのままホームの端に吹き飛ばされてしまった。何も気付いていないなまえはそのまま電車に乗り込んでしまった。エクボはすかさず葉書を拾い上げる。『受験票』という三文字を目にし、エクボは口をあんぐりと開けて驚き、慌てて電車を追いかけた。



エクボが追いついたときには、なまえは泣きながら歩道に散らかした鞄の中身を片付けているところだった。一通り鞄に荷物を詰め込んだなまえが立ち上がる。エクボはちょうど彼女の目線まで降りて、受験票を無造作に差し出した。
「これをお探しかい?嬢ちゃん」
「え?あっ…モブくんとこの…あっ?なんで!?受験票!?」
なまえは状況が読めないようで、エクボと受験票を何度も繰り返し見つめている。あわあわと震えながら受験票に手を伸ばすなまえ。エクボは「早く受け取って急げ。まだ間に合うだろ」と言って親指で受験会場を指差した。
「え……あ、ありがと……?ありがとう、みどりちゃん!」
「あと帰ったら膝あっためろよ!つーか俺はみどりちゃんじゃねえ!」
なまえが受験票を再び鞄の中に収めて走り去るのを見届けて、みどりちゃんならぬエクボは茂夫の部屋に戻るのだった。雪はいつの間にか、静かに降り止んでいた。
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