「神様...神様...」

何もない空を仰ぎ語りかける少女の目の前で悪霊は愛しそうに少女の頬を撫でた。そんな景色を横目に見て呟く"そいつは神様なんかじゃねぇぞ"なんて言葉も少女には届かない。

俺様はこの少女が此処に来た時から知って居る。不治の病と言われて病院を移された可哀想な少女だ。
(見てられねぇな...)
こいつは多分だが病気じゃねぇ、あの悪霊のせいだろう。変なのに憑かれちまって嬢ちゃんは気の毒だなと考えながら、当てもなくその場を離れた。

「私ね、未来が見えるの」

ある日のこと唐突に呟かれた内容に興味を引かれた。丁度あの悪霊が不在のようだ、代わりに俺様が聞いてやろうと少女に近づく。

「神様が私を救ってくれるんだよ」

お前が崇めてる神ってのは疫病神だろがと可笑しさに短く鼻で笑い飛ばす。

「でも、まだその時じゃないみたい。毎日お祈りしても私の願いを叶えてくれないの」

うつむく顔を上げた少女と目があった気がした、俺様の事は見えてねぇだろうから気のせいなんだが、その目が俺様に何か訴えかけてるようで居心地が悪かった。いつもの悪霊の気配に気付けば、病室から逃げるように飛び出して振り向く 部屋の番号と共にみょうじ なまえと刻まれたプレートを見て俺様は眉をひそめた。

数日後の晩の事、なまえの首を絞める悪霊の姿が目に映る。殺す気だと瞬時に判断した俺は見ないふりして放って置くことだって出来るってのに、なまえを助けたいと思った。急いでなまえに憑依すれば目の前の悪霊を払いのける。

「わりぃな、横取りして。俺様もこいつがお気に入りでな?いらないなら俺様が頂いてやるから引っ込めよ、神様?」

呆気なく悪霊が消えれば、静かになった部屋でそのままベッドに寝そべる。
同じ年代の奴に比べ、入院期間も長かったからだろうか?俺様が憑依しててもわかる貧弱さだった。天井に手を伸ばせばその細腕に簡単に折れそうだなと考える。だが悪いとこがあるような感じはしねぇな。

「なんだ、全然健康じゃねぇか」

天井に掲げた手に力を入れて握りしめ口元を上げて笑みを浮かべた。
翌日のことなまえが目を覚ますまで側にいてやった。起きるなり俺を見て"エクボ...?"と自信なさげに名前を呼ぶ。

「なんで俺様の名前知ってんだ?」
「貴方が神様?」
「人の話聞けよ。それ俺じゃねぇよ」
「やっと会えたね、神様」
「だから、ちげぇって言ってんだろ」

一度憑依したせいだろか?なまえはしっかりと俺様を捉えるように目で追ってきた。そして俺様と目が合えばニッコリと笑みを浮かべる。

「昨日はありがとう」
「は?何の話だよ」
「夜ずっとそばに居てくれたでしょ?」
「は?人違いじゃねぇか?」
「夜はいつも怖い夢を見るんだ。でもエクボが助けてくれるって、わかってたから怖くなかったよ」

"だから、ありがとう"と再度囁かれた。未来が見えると言ったなまえは、俺様が助けてくれる事を初めから知ってったんだとわかれば、してやられた気がして途端に恥ずかしくなってきちまった。

それからというものなまえの容態は医者が驚く程に回復し、退院の日にはお互い涙ぐみ また会おうと再会を誓った。

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