「お前最近様子が変じゃねえ?」
「...そう?」
「話聞くくれーならしてやるぞ」
「ふふ、ありがとう」

表情には気をつけているつもりだったが彼には通用しなかったらしい。私が悩んでいると思っているようだが半分正解で半分不正解。少し、困っているだけだ。何に困っているのかというと、変なメールが来るようになった事。内容は主に愛の言葉。好きだ、とか愛してる、とかそういった典型的なものだ。そして偶に私のプライベートに関する事も送ってくる時がある。明らかにストーカーされている。そう認識した瞬間ぞわりとした物が背中に走ったが今となっては飽きもせずよくもまあこんなもの、と呆れてる節もある。当初は送り先を間違えたのかとでも思っていたがかれこれ数週間毎日来るものだから間違いなく意図的に送ってきていると確信した。だからと言って危害を加えてきたわけでもないからどうすることもできない。だから放っておくことにした。

「今日一緒に帰らない?」
「...誘われてると思っていいのか?」
「そういう意味じゃない」
「へいへい、わーってるよ」

そんな軽口をお互い交わしながら、事務所を出る。すると私の前に居たエクボは、こんな夜中に女一人で歩かせてたら霊幻に怒られるしなと、呟いた。あんたの意思じゃないのか、と少しむっとして彼を後ろから軽く睨んだ。ふとここで、彼の様子が変だと気づいた。訝しげに見てみると耳をほんのりと赤く染めているのが目に映る。それに気づいた瞬間、先程までの態度と言動なんてどうでもよくなって胸がきゅんと疼いた。頬がじんわりと熱くなってきて、赤くなっているのが自分でもわかる。今の顔を見られたくない。そう思ってつい、歩幅を小さくして歩いた。それに気づいた彼は、私のペースに合わせてゆっくりと歩いてくれる。その優しさを見て、またきゅんとした。逆効果だ!と、朱色に染まった顔をマフラーにぼふりと埋めて歩いていった。

「着いたぞ」

どうやら私はあれからぼうっとしていたようで、いつの間にか家に着いていた。慌ててお礼を言う。彼はぶっきらぼうに別にどうってことねえよ、と吐き出すように言った。頭が良くて人使いも慣れてる。でも何故か女性を相手にするのは苦手なようで途端に不器用になる。可愛い、と彼のこういった一面を見る度に思った。

「戸締り気をつけろよ、じゃあな」

そう去っていく彼にまた明日と、手を振って見送る。すると彼は、前を向いていて私の姿が見えないはずなのに、手を振り返してくれた。その振った手は正に適当といった言葉が似合うものだったがそれが彼らしいと思うし充分嬉しい。思わずふふっ、と頬を緩ませて笑ってしまう。冬だというのに、何だか暖かく感じる。そんな出来事だった。

だがその心躍る気分もすぐに、スマホのバイブ音で現実に引き戻される。通知欄を見ると、1件のメールが来ていた。そのメールには「今日は男と帰ってたんだね。嫉妬しちゃうな」と書かれている。それを見た私は、またか...と溜息を吐き、何事もなかったかのように鞄から鍵を取り出し、鍵を開けてドアを開く。するとそこには衝撃的な光景が広がっていた。

目に映ったもの、それは使用済みのコンドームと白濁液があちこちに散らばっている光景。それを目にした瞬間、ストーカーの仕業だと確信した。この異常とも言えるあまりにも酷い光景に思わず口を手で抑えてしまう。う、と嘔吐しそうになるが胃の中は何も入っていない。喉にせり上がってくるのは胃液だけだ。喉がヒリヒリと痛むと同時に、きゅうっと締まる。呼吸ができなくて苦しい。この息苦しさを何とかしようと喉を必死に開き、やっとの思いで助けを呼ぶ声を絞り出す。するとバタバタとした足音が聞こえた。その音を聞いて私は安堵したのか、その場で足を崩して倒れた。するとその瞬間、今まで嫌な程クリアに見えていた視界が、霞んだぼんやりとした視界へと移った。あ、やばい。そう思った瞬間、体を揺さぶられる。

「大丈夫か!?おいしっかりしろ!」
「え、くぼ...私...」

言いかけたところで意識が途絶えた。光の失った目がすうっと閉じられ、体の力が抜けたのを感じると、エクボは彼女を横抱きしてベッドへ運ぶ。優しくそっと降ろして寝かせ、床に座って彼女の頭を撫でた。撫でる手を止めずにごめんな、と呟く。そしてまた一撫でしておでこにキスを落とすとエクボはすくりと立ち上がり、部屋の掃除を始めた。その間、彼の表情はまるで生気を失った死人のような顔だった。それから、ひたすら無言で部屋中に散らばっていたコンドームや精液を跡形もなく、まるで初めからそこに無かったかのように綺麗に片づけると、ポケットから鍵を取り出して玄関へ向かい、ドアをバタンと閉めた。そしてすぐ、後ろ手に鍵穴に鍵を突っ込む。その瞬間、エクボは目の奥を光らせ、ニタリと笑った。

ガチャリ、その時に鳴った鍵の閉まった音は鉛のように重かった。
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