「……いっ、」

掴みあげられる髪に根元が悲鳴を上げる。

「あーあ なんでアンタみたいな暗くて目立たない奴をたかし君が好きになるわけ。」
「ねー、絶対色目使ったんだよ」

じゃなきゃありえなくない?

…いつも教室で甲高く響いている声は低く、耳元で容赦なく目の前に居る私の悪口を言う。

「本当…ちょっと顔が良いからって調子こくなよ」

痛みに歪む顔を見てキャハハぶさいく と笑う。
いくらその手を掴んでもそのまま揺すられては前髪が抜けそうだとヒヤヒヤする。ついにはもう1人の子に腕を掴まれてしまった。

…知らない。そのタカシって誰だ。
ぼんやりと思い出すもイケメンと騒がれている人。それくらいしか思い出せない。

こういうことは前にもあった。誰の好きな人を取っただのって勝手に加害者にされていたんだ。

「ホラ、謝れよ!」

謝るまで離してくれないのか…。

もういやだな…頭皮は痛いし心も痛い。
ここで謝れば 離してくれるのかな……
冷静な気持ちとは別に何故か震える唇をゆっくり開く。

「ご、「あ〜暇だ」

どこからかハッキリと声が聞こえた。

「…え?」

声の主を探すも見当たらない、目の前の子は何だこいつって顔で私を見ている。

もしかして、聞こえてないのかな…?

ふと目線を斜め上に向けると、ふよふよと頼りない姿で宙を浮く何かを見た。

「おっ?」

パチリと目があった。

「なんだ?…こりゃ…いじめか?」

ふよよ と近付いてきた緑の何かにはなんと顔が付いていて。

「しゃべっ……」
「ん?俺様が見えるのか!」

少し驚いたように言って私の顔の前。

「ちょっと!さっきから何ぶつぶつ言ってんの?!早くこの子に"好きな人誘惑してすいませんでした"って言えよ!!」

グイと髪を引かれつい小さく呻く。

「オマエ…そんなことしたのか?」

まさかのドン引きされた。

「ちがっ……私は何もしてな、勝手に……」
「ハァ??!」

だってそうだ、本当に私は………
なのになんだってこんな…悔しくて涙出てきた。

「はー、まじイラつくんだよ!!」

目の前の子が腕を振り上げる。これは、ついに叩かれ───

「─誰か、たすけて…!」

ぎゅっと目を閉じ"祈る"ように声を出した。

「しょうがねェな」

突然身体をぬるい風が包む。

「俺様は神になるからな。優しい心で助けてやるよ」
「!?」

ブワと髪が逆立ち内側から何かが溢れるのが分かる。
目の前の子はパッと手を離し、後ろの子も後退った。

「サァ、いつでもいいぜ。とっととかかってこいよ」

自分が自分でないように声を出す。

「ちと痛い目見せてやるから」

覚悟は出来てるんだろうな?

ニタリと笑って二人近くで固まっていた子達を見ると、顔を青くし弾かれたように走って行った。

「……っはぁー」

溜息が漏れたその瞬間スポンと身体から力が抜けその場に座り込んでしまった。

「へっへっへ…あの二人の顔を見たか?どーよ、気分は」

俺様に感謝しな?

目の前で親指立ててウインクする知り合って間もない謎の浮遊物に

「すっごいスッキリした!ありがとう!緑のフヨフヨさん!」

思いっきりの笑顔で答えた。

「…お、おう」

赤い頬をポリと掻いてそれは言う

「俺様の名前はエクボだ。まぁ…なんだ、また困ったことがあったら」

俺様がオマエの味方になってやるよ
なんてったって俺様は神になるんだからな!

そう言ってエクボは二カッと笑い小さな手を差し出した。

「うん、よろしくね」

お友達ができちゃった。しかも神様。

ちょんと人差し指でその手をつついて私はあの二人にひっそりと感謝した。

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