ヒーローとは、個人の中の定義だと思っている。主に自分が助けてもらった人がヒーローに値するのではないだろうか。精神的に救われただとか、遠くから見ているだけでも精一杯なキラキラ輝いている人とか。私の中にはヒーローなんていないと思っていた。この時がくるまでは。
 目の前に広がるのは黒で、骨張って硬いのに暖かい。おおきなおとなの背中だった。なんていうか漫画やアニメみたいにか弱そうな女の子がこわい人たちにカツアゲしている所を想像していただければ今の状況は理解できるのではないかと思う。私は別にか弱くなんてないし守られる義理なんて毛頭ないけれど、目の前の人は助けてくれた。いや、本当に本当は人ではないんだが・・・

「おいおい、礼もなしか?」

 別に助けてくれなんて誰も言ってない。だって自力でもなんとか脱出できたもの、こんなの慣れっこだよ。何せこんな悪人顔だし、絡まれることだって少なくない。私のことを嫌っている人や羨んでいる人、妬んでいる人、ただ単に暇な人。今回は見知らぬ人だったから多分暇だったしついでにお金があればいいかなあなんて思ったんだろう。そんな哀れな人の暇つぶしにでもなれるなら、いくらでも私の貴重な時間を捧げよう。だから、お節介なんだ。かっこいい顔で、あせったみたいな顔をして「大丈夫か?」なんていわれなくてもいい。頭のなかはそんな気持ちでいっぱいなのに、なぜ涙が出てくるんだろう。エクボはその男の身体で私の腕をつかんだ。

「辛そうじゃねえか、泣かなくたっていいだろ」
「泣いてなんかない・・・」

 ぼろぼろと流れるそれを無いものだと思うのなんて簡単、でも強がってるのはバレバレ。エクボはおかしいみたいに笑う。牙がちらりと見える。エクボに弱いところも強がってるところも悲しいところも見られたくなかった。なんてことだ。プライドも高いし面倒くさい私だから、そんな私のこんな姿見られたくなかった。だって、助けてもらって、嬉しかったのだ。
 エクボは私の髪をぐしゃぐしゃにするように撫でた。鼻がつまって変な感じがする。エクボの暖かさとかを感じるのはこいつが人に憑依している時だけだ。けれどこれはエクボのぬくもりなんかじゃなくて、こんな不安定な存在のヤツを好きになるなんて本当に自分の人生で一番の失敗だ。でもやっぱり見せる表情は誰にいつ憑依してもエクボなんだ。もしかしたら生前のエクボもこんな人で、こんな顔をしていたのかもしれない。最低だ。どうして私は生まれてくる時代がもっと早くなかったんだろう。ほらまた、そんな顔で笑う。
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