新ジャンル3

 のこのこと後ろをついてきた乾は、なんの疑いもなく私からストローを受け取った。そこに睡眠薬が仕込まれているとも知らず――……。

 なんてことがあったらどうするんだ! 危機感を持て! と思う自分と、友人にすら中学生の頃から信用できないなんてここはどんなスラムだ……と思う自分。
 そんな二人が殴り合っているうちに、私――『私』は一体何人いるんだ。――はグラスに烏龍茶を注ぐ。隣では赤ずきんちゃん、もとい乾貞治が爽健美茶の出てくる様子を興味深そうに見つめていた。

「これ、水も一緒に出てるけど薄まってる味じゃないよね」

「お茶のカルピスの原液みたいなやつが入ってんだよ」

「へぇ! そうなんだ」

 前世での苦行バイトはこの日の乾の笑顔の為だったんだ……。
 全てが浄化される思いに浸りながら、部屋へと戻る道を行く。
 廊下には色んな部屋から色んな曲が、か細く聞こえてくる。

「佐波は、今日何時くらいに帰るつもり?」

「晩ごはんの買い物もしたいから、五時くらいには」

「俺もそれくらいにしようかな。一緒に帰ろう」

 尾籠な話で恐縮ですが、ゲロ吐きそうに可愛い。
 もう! もう! これ以上好きにさせてどうするつもり!? 好き! あなたに会えたそれだけでよかった!

「どうしたの乾。最近あんまり話せなかったから、寂しかった?」

 なんて。これくらいの意地悪は許してほし……乾は足を止め、なにか考え込むように顎に手をやった。
 ジョ、ジョークだよジョーク。そんな、本気で悩まないで、あ、涙出てきた、辛い。今だけは、悲しい歌、聞きたくないよ。

「そう、かも」

 アイラーーーービューーーーー!
 
「佐波も、寂しかった?」

 ジャックポットですか今日は。
 乾貞治は回りくどい話し方はするけれど、元よりツンデレとは対極にいるタイプで……だからって、こうも明け透けに好意を伝えられるとは思わなかった。いや! もちろん友情なんだろうけど!

「私は、そんなにかなあ」

 それはそれとして、ここのところ別ジャンルに忙しかったので寂しくはなかった。乾貞治には出来るだけ誠実であろうと、今、誓ったので本音で話しておく。

「えー」

 唇を不満そうに尖らせる顔もキュートだわ! すーきすきふー。

「……乾は、可愛いなあ」

 誠実が不誠実な形ではみ出てしまった。
 私の悪戯な左手は、乾の柔らかい頬を左右からふにっと潰している。ふーわふわふー!

「……もう」

 こんな気持ち! メロメロディー!!!
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