新ジャンル1

※腐ネタ多め(テニプリキャラ関係ではないです)


 夏の茹だるような暑さは幾分鳴りを潜め、空にはうろこ雲。きもちわる!
 そして遊び呆けてて、もとい部活にかまけていたら、いつの間にやらテスト二週間前だ。これはよろしくない。慌ててノートをまとめる。
 まとめ直すだけなら話しながらでも出来るので、もっぱら乾との朝の会がそれ用の時間になった。バカだとは、バカだとは思われたくないの……。

 はじめは乾に、「勉強教えてほしいな」とカワイコぶろうとも思った。しかし腐っても前世の記憶、むしろ腐ってる前世の記憶のお陰で、国英数理は中学生の間くらいはなんとかなってしまう。
 ただし問題は社会。あれは地理も歴史も暗記ものなので、ひたすらに覚えるしかない。苦手だ。……苦手だ。
 三日前の夕飯も朧げな人間に、歴代徳川家将軍が言えるわけもなく。怨敵ともいっていい教科。私が神様だったら、徳川家の頭の色を12色に塗り分けていた。キャラの書き分けが甘い。
 ――暗記科目というのは、人に教わるには向いていない。甘い個人レッスンは私が数学で詰まる日までお預けだ。無念。

 さて、今回の範囲は鎌倉時代。源と平は何人出てくるんだ。乱と戦いに次ぐ乱と戦いの順番は謎。壇ノ浦ってどこ。まとめ終えたノートに目を通すも、右から左へスルスル記憶が流れていく。
 皆目、覚えられる気がしない。

 こんな時、オタクの勉強方法は一つだけだ。
 鎌倉時代を自ジャンルにする。新ジャンルにハマった時の吸収力といえば、干からびたスポンジもかくや。





 そんなわけで平安時代を舞台とした漫画をプロアマ問わず読み漁った。
 結果見事にドハマリした漫画が、『テイルズ・オブ・ゲンジ』。源氏物語を題材にしたファンタジーだ。勇者である源氏ライトと踊り子のヘッド中将がもう、まあ、まあ……。しかし三日三晩彼らの馴れ初めについて悩んでから我にかえる。

 源氏物語は、そんなに単元としてでない。

 しかし時すでに遅く、私はもう後戻り出来ないほど『テイルズ・オブ・ゲンジ』にのめり込んでしまっていた。久しぶりに新ジャンルを開拓するとこれだから!
 せめて時代背景くらいは、と思ったのだけれどあくまで題材は題材。基本はファンタジー世界だ。まさか保元の乱の裏には悪魔軍の手のものの暗躍があっただなんて……。

「そんなものはないよなあ」

「どうした?」

「あ、はは……乾は、暗記科目ってどうやってる?」

 折角の朝の会も、気づけば意識は現ジャンルのことを考えてしまう。最近部活や体力作りに励んでいたせいで、オタク的なことをしていなかったせいか反動がすごい。
 いや! 私が悩まなければならないのは、ライトとヘッドがいかに互いを思いやりつつも負けたくないと克己しあっているかじゃない。悪魔軍の暗躍によりヒロイン数十名が攫われてしまい二人きりになった夜をどう過ごしたか、でもない。

「社会?」

「そうそう」

「年号とかは、やっぱり語呂合わせとかかな」

 語呂合わせ、か。やれご苦労だ最澄さんだの、やれむつかしい空海さんだの。
 「泣くなよ、うぐいす」「……」「オレ、お前が泣いてるとどうしたらいいのか」「ほっとけよ。どうせ僕なんて」「そんなこと言うなよ!」「……平安京ッ」だの――。
 
「あとは……佐波?」

「ごめん、涙の止め方を考えてた」

「ん?」

 ――良房が摂政就任!や、山小屋でー!?

「山小屋で、なにをしてたんですかね」

「佐波?」

 次回! 休眠後、将門兵挙げ、失敗す。

「どんな休眠をしたせいで失敗――」

「佐波」

「ご、ごめん」

「大丈夫か? 顔色もよくないし、あんまり遅くまで勉強するのは体に悪いよ」

 遅くまでやってたのは、同人サイト巡りです。この血が、憎い――ッ!





 まあそんな恥や失態を乗り越えた一夜漬けで、無事に中間テストは乗り切ることが出来た。定期的に史実か妄想か分からなくなるのが、歴史ジャンルの問題点だ。

「やーっと終わった」

 最後のテストが回収され終えた瞬間、張り詰めていた教室の雰囲気は融解する。あちこちでため息とも歓声ともつかない声があがった。
 ぐっと体を伸ばして、私も開放感を全身で味わう。なんで学校の椅子はこんなにも硬いのか。訴えたい。
 それはともかくとして、これでやっと、『テイルズ・オブ・ゲンジ』の続きが読める。末摘花のバリアは一体いつまで持つのか。気になって仕方がなかった。
 よし、さっさと帰ろう。部活も今日まではないし帰ろう。そうだ帰ろう。帰ろう。

「佐波」

 帰してー。

「テストも終わったし、カラオケ行こうって話になったんだけど行くでしょ?」

 行かないでしょ。折角声を掛けてくれた菊丸には悪いが、今は光GENJIより光源氏だ。「ごめん、また今度誘って」。そう言いかけた私に、後ろからぬっと顔を出したみいちゃんが、

「乾くんもくるよ」

 囁いた。
 行きます。最推しはいつだって君だよ、乾――。
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