誕生日2

「佐波さ……佐波は、身長は何cm?」

 はーーー今日も朝から乾が可愛い!
 おはようございます、佐波です。今日も今日とて幸せな朝の会。しかし珍しく、乾は本も開かずこちらを振り返った。斜め前の席の乾くん。幸せの青い鳥みたい。
 私はカバンを机に乗せて、乾の元へと歩み寄る。い、いいんだよね?

「えっと、150くらいかな」

 入学直後にあった健康診断の結果は、たしかそれくらいだったはずだ。
 近寄ると、座っている乾のつむじがよく見えた。新鮮な気分。それにしてもすごいな。可愛い子って、つむじまで可愛い。

「乾は?」

 そして――佐波、乾の仲ですよ。もう、これは相当仲のいい友だちじゃないか? ニヤける口元を必死でこらえる。
 昨日は家に帰って、早速友だちに電話を掛けた。浮かれた報告に、「……でも普通、下の名前に変えるんじゃない?」と言われたけれど無視だ! 着々と恋愛対象からそれている気がするが、

「165cm」

 この値千金の微笑みの前では、全て些細なことだ。
 「昨日測ったら、4月より3cmも伸びてたんだ」と嬉しそうに語る乾の破壊力といったら! すくすく育て。可愛いものの面積が増えること以上の喜びが、この世にあるだろうか。いや、ない。







 プレゼントは店をはしごして選びぬいた、肌触りの一等よいタオル。
 悩んだ結果、色は無難な白にした。本当の理由はもっと生々しい。乾の家にあるタオルと混ざって、いつか『佐波からのプレゼント』ではなく、彼の日常の風景となることを望んでの選択だ。我ながら、気持ち悪いなぁ。
 友だちからは、手作りのお菓子なんかも添えるといいのではないかと助言をもらったが……。これ以上の熱量は、初年度には重たいだろう。

 それにもう当日だ! 悩んでも遅い。
 私は水色の包装紙と白のリボンに包まれた箱を後ろ手に隠して、乾が登校してくるのを待つ。時間としてはそろそろだ。

「……」

 そわそわ。

「……」

 まだかな。私は自席から立ち上がって、窓の方へと向かう。校門の方に目をやるが、そこに愛しい姿はない。
 もしかして、事故に!?
 いやいや、乾だってたまには寝坊することだってあるはずだ。毎日毎日三十分も早く来る必要なんてないんだから。そうだ、きっと……。あ、やばい落ち込んできた。「佐波」「はい!!」

「おはよう」

「……お、おはよう」

 しまった、背後を取られた。
 「乾、今日はなんの日か知ってる?」「……もしかして!」「はい! 誕生日おめでとう!」っていう茶番まで考えてたのに。

「その、えっと、大分暑くなってきたね」

 ほらもうバレてるものーーー!
 ソワソワする乾貞治可愛いね。キュートだわ。

「見ちゃった、よね」

「な、なにが?」

 気を使われると余計いたたまれない。ちくしょう。

「あーもう! もっと驚かせるつもりだったのに。おめでとう!」

 私は大人げなくもふてくされて、乾にプレゼントを差し出す。
 しかし彼は受け取ってくれず、代わりに不思議そうに自分を指差した。乾の誕生日だというのに、他の誰にプレゼントをあげるというのだ。

「そうだよ。乾、誕生日でしょ?」

「……俺、言ったっけ?」

 あれ、聞いてない?
 どっと背中に汗をかく。教えてもらってもない誕生日にプレゼントとか! やだー! やめてくれそういうのー!

「前に! 聞いた!」

 つい必死な声が出てしまう。ついでにプレゼントを押し付ける。もうこの話はやめにしよう。なっ!
 乾は両手で箱を掴んで、それから小さく「そっか」と呟いた。
 反応が怖い。次に発せられる言葉が「いや、やっぱり教えてないよ。佐波……気持ち悪い」だったらどうしよう。乾はそんなこと言わない! でも、ちょっといいな……。

「ありがとう。嬉しいよ」

 それだけでここのところの奔走が全て報われます。
 「開けてもいいかな?」と言う乾の声は、聞き間違いじゃなければ本当に嬉しそうで、「どう、ぞ」なんだか照れてしまった。







 初めての誕生日お祝いは大成功とは言えずとも、及第点くらいはあげられそうだ。
 なにせそれから二週間後に行われた体育祭で、乾はあのタオルを首に巻いてくれた。それを見たときの私の狂喜っぷりは、筆舌に尽くしがたい。

 どうせ筆を費やすのならば、いかにグラウンドを駆け回り、いくつもの競技で活躍する乾の姿が神々しく美しかったかを語ろうと思う。
 100m走では惜しくもサッカー部のなんとかくんに一位を奪われてしまったが、その後の玉入れでの雄姿と言ったら! 長身と体のバネを活かして投げ入れられる玉は、ただの布袋のくせに宝石のように輝いていた。
 それに二位とは言え、コースを駆け抜ける乾の姿はしなやかな野生動物のように凛々しかった。はあ、かわいい。

 月末の期末テストだって、勿論乾貞治はどの教科も高得点。才色兼備、眉目秀麗。彼を褒める言葉は尽きることがない。
 長雨すら吹き飛ばすほど、彼の存在は私の光だった。
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