部活見学

 気を取り直して放課後だ。友達と連れ立って目的の場所を順番に見て回る。最初に文学部、次に女子テニス部、最後に男子テニス部だ。
 文学部は和やかな雰囲気でとても居心地よく、女子テニス部も厳しそうではあったが先輩後輩仲がよくやりがいがありそうだ。

 そして男子テニス部は、大和部長がとろけるほどかっこよかった。
 簡単な部活紹介が入学式の次の日にもあったけれど、その時はあまりピンとこなかった。大和部長、かっこいい。フェンスにしがみついて崩れ落ちそうなところを、りっちゃんが支えてくれる。
 どうも私は年上に弱い。当初の目的を忘れそうになるくらいときめく。かっこいい。
 友人たちのホントにコイツ大丈夫か?という視線で、ようやく立ち直る。それにしてもかっこいい。やっぱり、マネージャーを志望するべきだろうか。

 ほどなくして、先輩マネージャーが活動内容などを教えてくれた。球拾いやコート整備は部員の仕事、それ以外、個人の記録付け・水筒の準備・写真撮影・ビデオ撮影・ボール出し・備品の整理などがマネージャーの役目だそうだ。
 前世の体力が嘘のような今なら、やってやれないことはない、と思う。色々なものが有り余りすぎて、暇さえあればランニングをするようになってしまった。

「今年は見学者が多いね。誰かかっこいい子でもいるのかな?」

 そう言って悪戯っぽく笑う先輩。王子様世代ですから。
 見学者の一人が質問ですと手を挙げる。「やっぱり好きな人目当てでの入部って、迷惑ですか?」と真剣な顔だ。反射的にドキリとする。
 先輩は少し悩んでから、「好きな人に近づきたい、っていうんならやめておいたほうがいいと思う。でも好きな人を応援したい、っていうんなら――」。もう一度顎に手をやり、「やめておいたほうがいいと思う」と言った。





 花占いで決めるか。
 不順な動機で関わることに罪悪感はあれど、それを上回る幸福感があることを知ってしまっている。それでも、ここでその選択をしたら、もしかしたら、来世、カマドウマ。
 着替えを三人よりも一足早く終えた私は、体育館と校舎を繋ぐ道にしゃがみ、名も知らぬ花を引っこ抜いた。

「入る、入らない、入る、入ら……」

 手元にふと影が落ちる。顔を上げると、目の前には不二が立っていた。佐波、歩いてないのに王子様に当たった。

「やあ、不二くん」

 まったく今生は素晴らしい。やっぱりマネージャーは我慢するべきだろうか。

「その体勢、パンツ見えるよ?」

「あ、ああ。ご迷惑を!」

「怒ってないの?」

 慌てて立ち上がる私に、不二くんはすこし不思議そうに尋ねてきた。多分あの不本意なフラれ方を言っているのだろう。

「……不本意ですが」

「そんなに眉間に皺を寄せなくても」

 おやうっかり。いや前世からしたら王子様にフラれるなんて、ドキドキしながらサバイバルしたりガクガクしながらプリプリしなきゃ叶わなかった出来事だけれど。

「不本意ですが満点な発言でした。本意ではないですが助かりました。不本意ありがとうございます」

「敬語はやめてくれないかな」

「わがままだな」

 私のかぶり続けていた猫が、静かに退散した。
 完全に一人だと気を抜いていたせいか、もしくはあんまりに不二が気安いからだろう。

「……もしかして、怒ってる?」

「不本意ではあるけど、怒ってないよ。私も不二くん、別に好きじゃない」

「怒ってるよね?」

「じ、自信家ぁ」

 恋愛感情は私は乾貞治一筋だ。理由は長くなるので置いておくが、乾貞治一筋だ。
 「そう」と笑みを深くする不二は大変可愛らしいが、やっぱり乾貞治一筋だ。ちょっと大和部長に心が揺り動いたが、それでも乾貞治一筋だ。

「ならよかった。君とは、仲良くしたいからね」

 おやおや、いつの間に不二ルートに入ったんだ。転生特典なのか指先は確かに我ながら整っているけれど。(関係ないけれどこのまま逆ハーレムルートを目指そうとすると、『ポニーテールと眼鏡が似合う指がキレイですらっとスタイルのいい、何でも一生懸命でおっちょこちょいな明るく一緒に居て笑いあえる年上の落ち着いたスポーツ好きの活発な子(おいしそうにご飯を食べる)』となるのか。落ち着いた活発なおっちょこちょいってなんだろう。)

「そういう意味じゃないからね、わかってると思うけど」

 釘はきっちり刺すタイプ、不二周助。

「それに、君が好きなのは乾だろ?」

 突然の言葉に、じわりと汗が滲む。不二周助、腹黒は解釈違いなんだけれど……。

「バレますか」

「結構」

 そう言って笑う顔は穏やかで、神と宗旨が同じで良かったなあと思った。
 マネージャーになるか否かは、花占いが保留になったのでもう少し悩もうと思う。
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