友達

 休み時間に入った途端「菊丸くんと何話してたの?」と女の子たちの声が飛んできたのは、意外半分だよね半分だった。
 菊丸は二日目にしてクラス一の人気者だ。彼に話しかけたい女の子は、それはもうたくさんいるだろう。しかし、今も彼は男女混合のグループで賑やかにしている。どちらかと言えばそっちにいる女の子に話しかけたほうがいいと思う。ということで半分半分。

「辛気臭い顔するな、って怒られた」

 笑いながらそう言うと「なにそれ」と同じように笑ってくれる。ショートカットが爽やかな子と、女の子らしいロングヘア、真面目そうな三つ編み。よくもまあグループ内でここまでキャラがバラけるものだ。
 「菊丸くんって、なんかいいよね。ニコニコしてて」とショートカット。
 「私は不二くんかな。キレイな顔だよね」とロングヘア。三つ編みの子はそんな二人の話を笑顔で聞きながら、「佐波さんは?」と水を向けてくれた。

「え、あ、私は、……」

 急なことだったのでうっかりはっきり顔が赤くなる。「えっと」と口ごもっていると、三人は顔を見合わせて目を丸くした。それから「佐波さんってちょっとクールで話しかけづらかったけど、そういう顔もするんだ」と目から色んな物が出そうなこと言った。

「クール?」

 前世今世合わせてはじめての表現だ。
 もしかして菊丸のことはただの話すきっかけで――。

「うん、だから声掛けるの緊張しちゃったけど話しかけてよかった」

「今日からお昼、一緒に食べない?」

「という、ことなんだけど」

 頬肉を噛んでにやけるのを堪える。

「ありがとう! 混ぜてもらってもいいかな」

 お母さん、私、中学ではじめての友達ができました。
 私って黙ってるとクールに見えるそうです。乾の好みのタイプ『落ち着いた人(年上希望)』。ワンチャンあるでしょうか。





 今日は乾とも話せたし、友達も出来たし良い日だ。
 授業も終わり、私は足取りも軽く教室から出る。部活は明日から本格的に見学できるようになるらしいので、その時に決めよう。
 素晴らしい幸先にスキップを堪えていると、見慣れた見慣れない見慣れた人物が現れた。

「かや、久しぶり。学校にはなれた?」

 太陽の香りがしそうな少年、河村隆、タカさんだ。
 彼とは亜久津と同じく空手道場で出会った。道場は一年ちょっとでやめてしまったが、母親同士が気が合い時々お昼ご飯を食べに行ったりした。そして彼もまた、憧れの『王子様』の一人だ。

「久しぶりだね! 大分慣れたよ。友達も出来た。タカさんは?」

 前世の私も今世の私も彼のことが大好きだ。タカさんは優しい目元を緩ませて、「ならよかった。かやは人見知りだから」と言ってくれた。好き。
 それから下駄箱まで色々な話をした。タカさんは今、大石と手塚とクラスメイトで、明日は一緒にテニス部を見に行くらしい。ニヤニヤをニコニコに変換するために、顔の筋肉が攣るほど頑張った。

「そっか。私の友達も、女子テニと男テニのマネージャーにしようかなって言ってた」

「かやは?」

「悩んでるけど、とりあえずみんなと一緒に見学行こうかな」

 ショートカットのりっちゃんが女子テニス部に、ロングヘアのみいちゃんが男テニのマネージャー、三つ編みのゆうちゃんが文学部を見に行くと言っていた。私もそのどれかにしようと不順な動機で思っていたのでちょうどいい。
 こう並べると本当にバラバラな三人だが、みんな幼稚園からの幼なじみらしい。小学校の友達はほとんど公立にいってしまった私には、少し羨ましい話だ。

「でもタカさん、なんで急にテニスなの?」

 それは置いといて、こういう質問が簡単に出来るとは。本当に今世は素晴らしい。

「……えっと」

 ちょっと照れくさそうに頬を掻くタカさん。本当に今世は素晴らしい。

「力にしか自信がないって言ったら、一緒に、テニス、して、みたいって……その、二人、が……」

 本当に今世は素晴らしい!!!!!!
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