ハロウィン特設


アーリィナイト


女は苦手だけどお前に似た奴が知り合いにいるんだ。和泉は素っ気なく云ってまた黙った。制服の色位覚えとけよ。俺は胃の中に毒を吐いた。試しに何か飲みたいと云えばどっか寄ってく?なんて意外にもすんなり返される。スタバ──は中坊には高いな、ドトール?タリーズ?ベックもあるぞ。こいつが女苦手で良かった。そうじゃなきゃ大半は勘違いして次世代は殆ど和泉の子孫だろう。

「スタバで良いし」
「金あるのか」
「お前の財布にあんだろ」

怪訝な顔は夕陽に晒されて直ぐその中に融けた。仕方ないなと苦く笑う。逆光の横顔、しっかり縁取られた鼻筋。カワイー彼女とかいるんじゃないの。

「彼女はいるけど」
「何なんだよ。女の敵だな」
「別に……向こうからだったし……確かに何で受けたんだろうな」
「俺が知るかよ」
「何か俺、そういうの良くある」
「どうでも良いし」

ここだ、と、見上げれば緑と黒の看板。先に入って支えもしない扉にああ成る程これは女を知らねえなと理解した。吐く程甘い匂い。俺はやはり異性として認識されてないだろう現状に意味もなく腹が立って、まぁそれならと無難な商品名を店員に云う。

「お前は」
「俺、甘いの好きじゃあねえんだよな」
「じゃ何でここ候補に入れんだ」
「うん、キャラメルマキアート。ベンティで」

馬鹿かこいつ。シカトも去ることながら、舌の根が渇かない内に矛盾を吐き出す口が理解できなかった。甘党嫌いな奴がキャラメル?ベンティってなんだ、一番でかい奴なんじゃないの。云ってからしまった、みたいな顔をしていた。そういうの良くあるんだ、ともう一度和泉は云う。金払って受け取って席座って、俺は最初に馬ぁ鹿と罵った。

「ちょっとメール、良いか」
「誰に」
「恋人」

歩く嘘製造機と呼んでやろうか。興味ないみたいな素振りしてた癖に。別にお前が誰と付き合ってようがそいつが俺を見て修羅場ろうがどうでも良いけどね。面倒なのはマジ勘弁だけど。そこまで思うとなんか云い訳してるみたいだった、俺が?誰に?馬鹿馬鹿しい。

「で」
「でって?」
「何故知ってる」
「何を」
「とぼけるな。ガンツだ」
「ああ」
「俺はお前なんか見たことない」
「俺も。お前なんか知らない」
「じゃあ何故、」
「“此処”のお前はね」
「?……どういうことだ」
「さぁね」

俺が笑うと反比例して凍る顔も無理矢理笑い返す顔も色男。無知に恐怖する辺り和泉の頭は悪くない、貪欲な割りに無関心なのは余りに出来すぎた人間だからだ。御愁傷様。

「まあ……良い。そんなことは。どうだって」
「酷い云い様だな」
「他人を知りたがる余裕がない」
「自分を知りたいお年頃?」
「そうだ。俺はガンツにいた──その記憶だけがない」
「俺からなら何か引き出せそうと思った、だから誘った」
「ああ。俺はガンツに生きる意味があった」
「物好きだな」
「何故俺は抜けた?寄りによって一番を選んだ?」
「俺が知るかよ」

殺し合いに生き甲斐を見出だしてるなんてこいつはよっぽど人格破綻している。スリルなんてマゾヒスティックな娯楽がある方が人間的なのか知らないけれど、少なくとも安全な所からの破壊だけが総てである自分と対極にいるのは確かだった。どちらがより人間的なのか。どちらがより終わっているのか。

「お前はどう思ってんの」
「俺は」
「お前は?」
「さっきみたいなことがあったんじゃないかと思ってる」
「『キャラメルマキアート』?」
「……ああ」
「にしては随分他人事だな」
「他人事だ。全部俺じゃない」

あ。こいつ病気だ。
背も高い顔も要領も抜群に良い、のに人格破綻の多重人格なんて世の中が巧く回ってる証明だ。恋人が慰めてくれると良いですね。そいつがカワイソウなみたいに、お前も絶対救われないだろうけど。

「きっと俺の知らない所で」
「…………」
「知らない俺がせめぎあってる」
「自分同士で?自分の癖に?」
「多分」
「ふぅん。俺には全然解んね」

剣呑を求める和泉と安穏を求める和泉。それを悩む和泉、なぁ今のお前はどっち?心から理解が追い付かないと思ったし追い付こうとも思わなかった。俺は俺だ。何が是か何が非か、多分同じ選択肢しか持ってない。

「残念だったな、収穫なくて」
「いや、収穫はあったよ」
「何が」
「俺の束の間の夢だ」
「どういう」
「彼が彼女になった」

そう云って外に面した硝子の壁をノックする左手の先を見ると目付きの悪い美人がいる。俺と同じブレザーとシャツ、違うネクタイとズボン。わざとらしく誰?と笑えばさっきメールした奴、と意外にもすんなり返される。最初に云った彼女、と恋人はきっと別人だ。この女の敵。

「何でいんだよお前」
「別に。良いじゃん恋人だし」
「はァ?」
「俺が云った」
「和泉てめェ」
「じゃ、本命が来たところで」
「帰るのか」
「居座る程野暮じゃねえし」
「悪いな」
「あ、飲み残し。お前飲んで」
「いらねえよクソ女」
「俺だし良いだろ……和泉」
「何だ」
「その矛盾だけどな、」
「ああ」
「いつかお前を殺すぜ」
「…………解った」
「?おい、何の話だ」
「じゃな、救われない少年」
「シカトすんなら早く消えろ」

何の話なんだよ。向けた背中で詰問が始まるのを見る。さっきから全然減ってない和泉の飲み物は、やっぱり経緯も何も知らないあいつが片付ける羽目になるんだろうな。俺が甘いの嫌いだからあいつにも地獄だ、ざまあみろ。俺は俺だ。同じ選択肢しか持ってない。和泉の場合は特別できっと黒い満月に囚われてなんかいるからだ。御愁傷様。

(選ぶものがが同じなら)(つまりこの俺も奴を、なんて)(馬鹿馬鹿しい)


(救われないだろ)


(101031)

狼男…人狼。人喰い狼が語源だが徐々に満月の夜に獣人化するイメージが普及したと云う。

西♀→和西







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