はつ恋

※26巻で西に告った女子×西

彼はそれを救済だと云いました。早ければ早い程良いと、地獄を見る前にと云っていましたが私には彼が何を見ているのか、また何が視えているのかその時点で何一つ解ってはいませんでした。そんな侭の私が彼に想いを告げることのどれだけ烏滸がましかったことでしょう。人知れぬ告白に人知れず恥じ、遠くから見ているだけの、じりじりと融けては焦げ落ちて地面に染みを作る様な私の恋。彼が神様を騙ったのは私がその想いを告げた日でした。手紙でしたので読んで貰えていたのかすら今となってはもう知る由もありません。

いつも一人だった彼。本当は優しいと浅はかに信じていました、何一つ解ってはいなかった癖に。いつも一人だった彼。同級同組というこの世で一番閉鎖的な社会で虐げられどれだけの思いでそれでも登校していたか、想像に易いことではありません。現に彼は無感情を装うことに終始徹していたのでした。人為的な災厄は総て嘲笑で一蹴(思えばそれがあまり良くなかったのかも知れませんが)、私たちに対して大人が云う所の「やられてもやり返さない」強さ、私がどうしようもなく惹かれた魅力でもありました。優しいと浅はかに信じていました、私はそれを私だけが知っていれば良いと卑しくも思ってしまいました。兎に角、では、恨んだ筈の総ての子らの頭に赤い花を咲かせ何故彼は尚も自らの行動を救済と名付けたのでしょうか。私をわざと殺さずにいた意図は?情けか怒りか。いいえきっとそれは、揶揄。お前に俺の何が解ると云う告白の返事。救済などと皮肉を込めた誇示。優しくなんていないと、或いはどうだ優しいだろうと、私の想いを柔らかに冷まそうとする横顔。いつも一人だった彼。私もまた所詮は愚図で彼の為に何も出来ない拒むべき一生徒でしかなかったのです。それでも彼が敢えてそうすることが、ああやっぱりこの人は優しいのだと、私に確信を与えてしまっていたのでした。


(暗転)


「ど……するの?これから……」
「何で……お前、ここいる訳?」
「?」
「クラスにいたっけ……お前」
「あ……うん、そっか……覚えてないよね」
「知らねェ」
「地味だもんね、私」
「虐めた奴の顔なら忘れない」
「…………え、」
「お前俺なんかの何処がいいの」

目を合わせずに、それは彼が現実すら信じていないのを象徴する様なひたすらに空虚なもので、余りの冷たさが私の喉を凍らせ、脳を凍らせ、一年間ずっとしたためていた理由などあの手紙の反復すら侭なりませんでした。

「……なんかじゃ、ないよ」
「見ろよこれ。やったの誰だよ」
「……いや」
「でも時間の問題だったろうな。遅かれ早かれ、本当はもっと現状を恐怖して苦しんで死ぬんだ」
「?どういう」
「こいつらを救ってやったのさ」

アメリカ人でもましてや軍人でもないあろうことかこの時点で未だに発達してない同年代、武器も持たず大人に抗いきれないだから俺みたいな捌け口をあの手この手で欲しがるガキ共、ああ可哀想に可哀想にもう直ぐ地球は地獄になるのに!だったら早ければ早い程良いだから俺は解放を、この世界からの追放を、可哀想に可哀想に今までさんざ好き勝手やってきてもとうとう俺の上に立てなかったお前ら、挙げ句に同情までされてやんの、人の痛みも解らない頭も随分すっきりしたんじゃねえ?なぁ何か云えよ、救世主の俺にさぁ。

「ああ、口が無いんだった」
「西くんには」
「あ?」
「何があるの」
「武器と、先見の明って奴?」
「未来が見えるの」
「お前よりは鮮明にね」
「私も、じきに死ぬの」
「……知ったこっちゃないって」
「…………」
「お前だけは助けてやらない」
「え?」
「生きろ。これから何が起こるか精々良く見るんだな」

いつもより饒舌な彼はまだ何か云いたいことがある様でしたが、その為に吸った息はただ吐き出されるばかりでした。気付けば教室には二人だけ、太陽もすっかり沈みきってただ何かの照らす外からの明かりが彼の頬を白く照らします。ぴちゃ、と乾きかけたかつての村田君の血を踏んで窓へと近付く足音。ったく、なんでこんなことになってんだよと、彼がぽつり呟く声が聴こえました。


(消失)


それからが良く思い出せませんが彼の言葉は一字一句違えずこの耳の奥に住み着いています。あの時の彼の視界も同様に、この空を鮮やかに映していたのでしょうか。赤。緋。朱。燃える色に悲鳴をあげ融けてゆく、足下に未だ染み込んでいる私の恋。


(101103)


ド…ドスコイ
階段を上がる音から
ねるこさんが付けた
あの女の子の呼び名

26巻はお互い最終話で再会する
伏線の話だと私は信じたい





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