才能退化した君は


(なんて愚かで)

誰か好きな奴出来た?と、いつも西はヤることヤった後にそう聞いて来る。ピロートークって奴にしては大分不自然な質問だと思う。だから俺はいつも排出した蛋白質再摂取の為のラーメン二人分に湯を注ぎながら聞き流すことにしていた。卵落として三分間。幸せそうに見えるのかと聞いてもそんな総じて阿呆面に決まってる顔の見分けなんかつくかの一点張りだった。何なんだ。

「そんな浮気して欲しいの」
「浮気も何も恋人じゃねぇだろ」
「え」
「え、って何だよ」
「酷いわ丈一郎さん私を弄んで」
「ぶん殴りたい」
「すんませんした」
「……前の方なら良かったかな」
「あん?」

俺が死ぬ前のお前。いっちゃん最初、世の中全部バカで出来てるみたいな顔してて、だから俺、ちょっと気が合うって

「思ったのが運の尽きだった」
「酷いわ丈一郎さん」
「リーダーとか。ガキ臭」
「ガキに云われたくねえ」
「なぁ玄野は俺のこと好き」
「まぁ嫌いではない」
「充分。釣りがくるね」
「じゃあ寄越せ、釣り」

もう一度西のいる布団に潜り込んでじゃれ合いというスキンシップを試みる、けど西はなれ合いが嫌いだからどうしたってベッドの上の攻防戦になって、勝った方が相手の唇を搾取して終わるのだ。別に悪くなかった。罵詈雑言浴びながら勝つのは大体決まってるし。それにしても俺が少し布団の外に出ただけで西の身体は直ぐに冷たくなる。筋肉がついてない証拠だった。こんなんで一年生き延びてきたのか。よろしくねえなぁと思いながら腕の中で温める。

「……な──西──」
「……何」
「マジで付き合わねー俺ら」
「もう突き合ってんじゃん」
「多分お前の漢字違う」
「良いよ」
「つーかお前突いてな、え?」
「何だよ」
「いや拍子抜けした」
「良いよ。でとっとと浮気しろ」
「淋しいこと云うなよぅ」
「俺は」
「ん?」
「そんなの淋しくないから」

西がちょっとだけ小さくなった。身体に力を入れて収縮している。それでも体温は冷たい侭だった、俺なんか悪いこと云ったっけか。

(あ、そうだ。こいつ父親が)

じゃあなんで尚更。

「俺は」
「西は?」
「あの女と違うし」
「お前母ちゃん嫌いだったっけ」
「嫌いだし」
「ふうん」

西がそう云うなら、俺は目と耳を潰されていたあの時を思い出さないことにする。

「だからお前が浮気したら」
「ヤキモチ焼いて殺す?」
「それはそれで良いと思ってる」
「なんだ」
「何だよ」
「いや拍子抜けした」
「殺して欲しいなら個人的に」
「や、嘘、嘘」
「──俺は一人で平気だし」
「淋しいこと云うなよ」
「それが証明出来んなら、お前はどんどん浮気して良いよ」
「……西」
「何。もっかいすんの」
「西はさぁ」
「撫でんなキモいから」
「ホントは好きだろ、母ちゃん」
「…………うん」

悲しいなあ。
こいつ悲しい、なあ丈一郎さん。好きなだけ嫌いで、でも嫌いになれる位好きで、先に死なれて恨んでて、自分は死ねなくて恨んでて、でもそうしたら今までの幸せは何処だ?惜しみない相互的な愛が破棄された。それでも最期の文字が西の頭を食い荒らしてる。いつかそれ全部話してくれた時、淡々とした口調の何を、俺は聞いていたんだろう。

「玄野」
「おんなじ位愛されたい」
「三分経ったぜ」
「俺は不謹慎だなぁ」
「なんて思ってない癖に」
「バレた」
「バレるって……」

僕と同じ目してたんだから。


(タイマーが鳴り止む)
(また西の手足は蛇になる)
(愛憎大破した君は)


(なんて愚かでいとおしい)


(101020)


BGM:能動的三分間

多恵ちゃんがいない
玄西+ママパターン(定型的)





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