腐ったもの食い


例えば寝しなにヨーグルト食って腹を壊す所とか玄野は本当に馬鹿だった。

「だって明日までなんだもんよ」
「何が」
「フルーツソース?」

手に余りながらも大きいとは云えない瓶を玄野は縦に振る。ドロドロの黄色が半固体と固体で競争しながら上から下へ溜まっていく。えーアップルアンドシナモン?と最初から最後まで自分の胃に流し込んだ物に対して疑問形かつ無関心だった。知己から貰ったは良いが父親も母親も兄弟も食べないそれを宅急便で引き受けたんだそうだ。

「美味いよこれ。西も手伝え」
「嫌だね、俺そういうの嫌い」

大体ヨーグルトが嫌いだしもっと云えばチーズもバターも好きじゃないしそもそも牛乳が苦手だし。似た様なのは大好きなのにな。何か云った。何も、乳製品は完全食品だぜ。

「栄養素全部補えるんだ」
「それだけ食ってりゃ良いってことないだろ」
「そりゃそうだ」
「……昨日の朝飯は」
「忘れた」
「一昨日の晩飯は」
「多恵ちゃんに作って貰った」
「何を」
「忘れた」

頭脳は知識と記憶力、生徒である俺と玄野の不可欠落要素を繋ぐのはいわゆる興味関心意欲態度だ。別に頭の良し悪しがそれで決まる訳じゃない。俺だって通知表で滅多にAを貰わない項目だ。それでも玄野は馬鹿だった。自分のことは大好きな癖に人一倍無関心だった。

「甘いの嫌いな家だったかんな」

へら、と笑いながら玄野は白く濁った気持ち悪い完全食品に砂糖で煮詰まってドロドロした固体半固体を落としていく。底に溜まったのが滑り落ちて透明な瓶が蛍光灯の光を太陽の様に拡散する。重い黄色は沈む。白に飲まれて甘くなる。それでも無理やり大きいのを買ったもんだから甘味料のないそれに玄野は一言すっぱ、と顔を潰した。その下らねえ家族に同調するにはそれしかなかったの。つられて笑ってんじゃねえよ。自分の価値決められてんじゃねえよ。云わねえけど。家族がそんなもんなんて。云ってやらない。代わりにまだ半分も中身の残ってる紙容器に指突っ込んでやった。ひやりと埋もれる第二関節。

「うおおい!お前何して」
「手伝ってやるよ」
「何だよ急に」
「お前には勿体ない高級品だから腹に合わないんだよ」
「何だと」
「乳製品だけ食ってろ」
「……嫌いなんじゃないの」
「似た様なのが大好きだからな」

ゆっくり引き抜いて舐めるだけでこの馬鹿には充分だ。へら、と笑いながら玄野は俺の鼻の上に白く濁った気持ち悪い不完全食品を落としていく。舌の上に乗せた人差し指は腐り損なった林檎の味で吐く程甘い。例えば後で俺がトイレ占拠して困らせることに気付けない所とか玄野は本当に頭が悪い。


(120920)


リハビリテーション





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