短くてやおいなやつ

※西受けじゃないのもある


(玄西)

じいちゃんが死んで葬儀に呼ばれたのが最後に家族を見た時だった。アキラはまた背が伸びていてとうとう俺なんか視界に入ってないんじゃないだろうか。両親が俺を視野に入れてないから慣れてるけど。俺の膝に座った西がまぁ世界の終わりを見なくて良かったじゃんなんて不謹慎極まりなかったから小突いた。じいちゃんっ子なんだぞ俺。

「入院してた時病院には何度か行ったんだけどな」
「うん」
「甘い匂いすんの、インスリン足んなかったらしくて。排泄物は直接吸い取るとかってチューブに繋がれててさ。部屋ん中臭うんだ」
「あーそう」
「興味ないだろ」
「皆無」
「……糖尿病ってさ、しっこ甘くなるとかいうけどマジっぽいって思った」
「甘いよ」
「おい良い加減生返事すんな」
「甘いよ」
「何で断言してんだよ」
「何でだと思うー?玄野くん」
「聞きかじってるだけの、癖、」

あ?
思い出すいつか西が云った話。

「何でだと思う?」

西はもう一度聞いた。
俺今何の質問されてんだっけ。忘れる位には上から見た西の伏せった睫毛と鼻の白いラインが煽っていて残念ながらそっちの方が俺にとっては大問題だった。興味皆無の気持ちが解った。

「……糖尿病ってさ、」
「うん」
「遺伝するってな」
「確かめてみる?」
「いいの」

聞いて後悔した。西だって繋がりの証が欲しいのだ、良いに決まってる。


(西→和泉)

貴方の訃報をテレビで聞いた時
僕は母が遺した花を
水を遣り愛でていた途中で
引き千切ってしまいました
僕の愛した彼女の死は何処にも
伝えられなかったと云うのに
そんなことを先ず思いました
それから静かに貴方との記憶に
貴方がした時の様に蓋をして
脳内で飼っているバクテリアが
都合の良い人間なら誰でも
飼っているその生き物が
分解してくれるのを待ちます
ずっと耐えて待ちます何故なら
根刮ぎ引き抜こうとしたとして
僕が思うより遥かに濃く
深く
逞しく
根付いていたのだと万が一
思い知らされるのが怖いのです
掘り返せば次から次へと
ある筈のない貴方との思い出が
果てしなくあるのではないかと
妄信してしまうのが怖いのです
それに次に考えるのは決まって
如何に解りきってすらいても
それでは貴方はどうだったろうか
などと不毛なことばかりなのです
拝む心算のない貴方の亡骸に
どれだけ僕へ向け認めた感情が
宝石の様に詰まっているのだろう
そう考えられたのならば
死とは希望です
こうしている間にも僕の頭は
貴方を美しく書き換えています
その中で貴方は最悪な人だったと
およそ完璧な貴方に対して
他人が持つことのない気持ちを
僕だけが持っていると云う事実が
輝きを放つ唯一の形見になります
黒い天鵞絨の瞼に覆われて
眼球の貴方が別人になっていく
さようなら、
僕だけが本当の別れを云えるのだ


(学生組)

加藤は自分の乗った電車と擦れ違う電車の、その中を見るのが好きだ。自分のいる場所と違う空間、自分の持つものと違う運命を手にしたものが轟音に反して静かに揺られている様を見るのが好きだ。不偏に平等に訪れている平和の象徴。車内の無関心で暖かな空気が同じく流れているのだろうかと加藤は今日も銀色の手摺に凭れながら目を瞑る。

西は電車から見下ろした街の風景、とりわけ歩道を眺めるのが好きだ。見られているのを構いもしない人々が一瞬ずつ自分に披露目する無防備な生活感が好きだ。それらが一瞬にして壊される瞬間を脳に描く。遠いが故に小さく、ならば自分でも踏み潰せそうだと西は今日も膨大な人の生活を切り取って取り込んではそして捨てていく。

玄野は電車内にまるで物の様に詰め込まれた人間の、体温と無言が実は好きだ。自分と同じ孤独同士が仕方なく寄り添っている感じが好きだ。もしも、万が一、この中に自分を求めてくれる人がいたら。そのささやかな願いが余計に大勢の中のたった独りを誇張していることに気付かない侭、玄野は今日も人の波に流されていく。

和泉は電車を降りた時の、冷えた空気と変わる空気が好きだ。移動させられたという感覚と解放されたという感覚があれば途端に毎回姿を変える普段のプラットホームが好きだ。しかし今降りなければ、自分はもっと遠くまで行けたのではないか。疑問を一旦払拭し、和泉は今日も優等生の服を着て遅刻のない様歩みを進める。

桜井は遮断機から見た時の、大勢の体重を付加した電車が嫌いだ。毎日の様に遅れるそれとその原因が遮断機の傍の駅のホームから聞こえるのが嫌いだ。遮断された世界の向こう側を目指す人々。上昇する柱をくぐりながら桜井は今日も、想像するしかない痛みと心ばかりの悼みを恐れて死の世界を横切っていく。


(西→玄野)

おまえのことほんとは大きらい

生き残ったお前は珍しくてもしかしたら俺と同じだから、だから生きることが許されたのかもしれないと思った、のに、お前はそれを選ばなかった。自分を否定して、すなわち俺を否定した。だから早く死ねと思った。結局お前は生きて俺は死んでお前は生き返らせて俺は死ぬのをやめさせられた。思えばあの時生き返らせたのが俺だったのは少しだけお前にとって有益だったからだろうしその古参の距離も俺の不存の半年でもう追いつかれてたし実際直に追い越される、なによりお前はお前"ら"になっていた。くだらない。どうせ良心が人を死なせたくなかっただけだと云いたかったのにお前は俺が罵倒できるほど偽善者でもなかった。俺を必要とした理由を思い出した。お前がいたミッションで俺が死んだのを思い出した。諦めたら諦めたでまたこっちに来た。お前"ら"が来た。死ねばいい。俺を否定して俺にないものを全部得てそれでお前は満足か。満足だろうな。お前だって結局は俺とは違うただの、

おまえのことほんとは大きらい

(嘘。とても大すきでした)


(玄西)

「玄野」
「なん」
「愛してる」
「……うん、俺も愛してる」

(口づける)
(何処にかは云わない)

「愛してる」
「愛してる」
「あいし、ぅあ」
「西?」
「……あいしてる」
「うん。愛してる」

(深く抉られて喉がつられた。玄野は自分の所為だと気付いてない)(優しいキスと腕と体温)(溶けそうだ、と上から睦言が降ってくる)(首元に鼻を擦り寄せるとあまい汗の匂いがした)

「愛してる、玄野」
「愛してる、西」


(笑)


(寝ると食べるのその間、当たり前の様に俺たちは繋がる)

「じゃぁんけぇん、ほい」
「勝った。トイレな」
「ええぇ。俺風呂ぉ?」

やだぁ跳ねるんだもぉんと俺は巫戯化た声を出しながら西を一瞥して、それでも渋々浴槽に向かった。向かったと云ってもユニットバスだから西は素っ裸の侭洗面台を挟んですぐ隣にいる。便器の中をじっと見ている。直ぐに気付かれて見んなよと素早くシャワーカーテンを閉められた。乾いた音が響いて尚更虚しくなった俺も素っ裸の侭排水溝の奥、黒い奈落を眺めてみる。シャワー下と浴槽内に二つあるが後者の方が流した水が広がらないから始末が楽なのだ。人差し指を曲げて口に入れる。さっきの愛撫で何となくしょっぱい。胃が熱を持つ。熱が上をゆく。

「おぇ」
「うぇ」

嗚咽音がステレオで聞こえた。向こうから鈍い水音が断続的にしている。だけどこっちもそれどころじゃなく白い滑らかな浴槽に薄く色が付いて粘り気のある液体が広がる。よぅ、また会ったな夕飯。苦しいと舌を出せば食道が詰まって余計に苦しかった。え゛、とえずく声は俺じゃない。大丈夫かぁと云おうとして第二波がきた。胃がひっくり返って耳が感知しない悲鳴をあげている。粘度が低くなってびちゃびちゃその上から胃液だけが白を汚しても俺の身体はまだ吐いた。

「……終わった?」
「……ァ、は……終わった」

カーテンの向こうの影がよろけながら動いて水を流した。なんだか少しエロいなァと思いながらシャワーで浴槽の中身を奈落に突き落とす。あの気持ちの悪い黄色は身体と心に溜まった悪いもの総てだ。要らないものは捨てる、自由の為の鉄則だ。嫌悪感のあるものが身体の中にあるだけで勘弁だった。例えば?

「俺さ、体重計買ったのね」
「あの数日前から入口の一番邪魔なとこに置いてある奴?」
「測ってみた?」
「何でんなマゾなことすんの」
「いいから。どん位あった」
「……玄野は」
「52」
「終わってんな男子高校生」
「うるせ、お前幾つ」
「44」
「うわ50切ってんの、女子か」

抱えて運んでってやるよと持ち上げたら本当に軽くて吃驚した。硬くて柔らかい身体。抱き返すのか突っぱねるのか良く解らない心算の腕が俺を覆うからそれに合わせて西を床に返す。耳の裏に鼻を擦り寄せるとあまい汗の匂いと、それからさっきした行為の少し酸い匂いがした。

「愛してる、玄野」
「……うん、愛してる、西」

それが本物なら骨の溶ける呪い。
偽物なら魂の削げ落ちる呪い。
俺たちが軽い理由なんてそんなもんだ。

(受け付けない)


(~110826)


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